おしゃぶり
2016.03.10
おしゃぶりのメリット、デメリット
欧米のイラストで描かれる赤ちゃんは、必ずゴム製の乳首「おしゃぶり」をくわえています。でも、日本ではおしゃぶり姿の赤ちゃんをあまり見かけませんね。昔から「おしゃぶりをすると歯並びが悪くなる」と言われていて、おしゃぶりに抵抗感があるからでしょうか。
海外では、平成27(2015)年8月、サッカーの元イングランド代表デヴィッド・ベッカムさんの4歳の娘ハーパーちゃんが、おしゃぶりをくわえている写真が英紙デイリー・メール紙に掲載され、物議を醸しました。この記事では育児の専門家が、「おしゃぶりを長く使用すると、歯並びへの悪影響や言語発達の遅れを招く可能性があるので、1歳未満で使用をやめるべき」とコメントしています。
記事に対して読者から千件以上の意見が寄せられるなか、ベッカムさん本人がinstagramに、「(略)子どもを持つ人なら誰だって、子どもがぐずったり、熱があったりしたときには、その子を安心させるために最善の方法を試すはずだ。そしてほとんどの場合、それはおしゃぶりなんだ。(略)」と投稿。著名人のこうした意見に、世界中から賛否両論、さまざまな議論が交わされました。
では、実際におしゃぶりにはどんなメリット、デメリットがあるのでしょうか。
<メリット>
・赤ちゃんの「吸啜(きゅうてつ)反射」を利用することで、赤ちゃんが落ち着く(泣き止む)
・寝かしつけしやすい
・指しゃぶりを抑止する
・乳幼児突然死症候群のリスクを軽減する効果があるという研究論文がある
<デメリット>
・母乳栄養の妨げになる
・赤ちゃんがやめられなくなる習慣性がある
・歯ならびやかみ合わせが悪くなる
・子どもの口周りに問題が生じやすい
・常におしゃぶりをくわえていることで、言語の発達が遅れる
・赤ちゃんをあやすのが減ることで、ふれあいの機会が減る
日本では、平成18(2006年)、おしゃぶりを3歳まで使い続けたことで歯列やアゴが変形するなど深刻な障害が残ったとして、横浜市の女児と母親が大手ベビー用品メーカーに損害賠償を求めた「おしゃぶり訴訟」が起こっています(平成20(2008)年に和解が成立)。
この訴訟を受け、母子健康手帳に平成19(2007)年、「長時間にわたり、おしゃぶりを長期間使用すると、歯ならびが悪くなる場合があります」と記載されました。ところが、平成24(2012)年にこの記載は削除されています。
いったいおしゃぶりを使ってもいいのか悪いのか。国を含め、みんなが悩んでいる状況(←今ココ)です。
おしゃぶり使用の注意点
平成21(2009)年、コンビ株式会社の「プライマリー・オーラルケア研究会」では、全国の3歳までの子どもをもつ母親に赤ちゃんのお口ケアやおしゃぶりの使用状況などに関する調査を実施・分析しました。
この結果、おしゃぶりを使っている人は半数近くの48.1%。
しかし、おっぱいの種類によって、使用率に違いが出ました。「母乳派(母乳のみ+母乳中心の混合)」39.3%に対し、「粉ミルク派(粉ミルクのみ+粉ミルク中心の混合)」が68.6%。粉ミルク派の方が「人工乳首」に慣れているので、おしゃぶりの使用率が高くなっているようです。
「おしゃぶりをどんな時に使っているか」という質問では、1位「機嫌の悪い時(ぐずっている時)」、2位「泣いている時」で、3位「寝かしつける時」は母乳派が36.8%に対し、粉ミルク派は60.6%とここで大きな差が出ました。
おしゃぶりを使っている母親に「おしゃぶりを使うことでの不安・不満」を尋ねたところ、「歯ならびが悪くなる」43.4%、「出っ歯になる」32.9%など、歯ならびへの影響を心配する声が多くあがっています。
プライマリー・オーラルケア研究会のメンバーである米津卓郎歯学博士は、以下のように述べています。
「おしゃぶりは、いろいろな研究結果からも一定の鎮静効果や安息効果が認められており、育児をサポートする有用なツールですが、誤った使い方をすると『歯ならび』に影響が出る恐れがあり、その選び方、使い方には細心の注意が必要です」。
プライマリー・オーラルケア研究会では、おしゃぶりについて注意すべき点をチェックリストにまとめました。
<おしゃぶり選び・使用のチェックリスト>
・赤ちゃんの月齢に合ったものを選ぶ
・長時間の使用は避ける
・言葉が出だす1歳過ぎになったら、おしゃぶりのフォルダーを外して、常時使用しないようにする
・1歳半を目安に使用をやめるようにする
・おしゃぶりを使用している間も、声かけや一緒に遊ぶなど、ふれあいを大切にする
・4歳以降になってもおしゃぶりが取れない場合は、かかりつけの小児歯科医に相談する
近い将来商品化!? デジタルおしゃぶり
平成27(2015)年、日本科学未来館で開催された「デジタルコンテンツEXPO2015」では、最新のデジタル技術を用いた映像や音楽、ゲームなどが紹介されました。
なかでも話題を集めたのが、東京大学と慶應義塾大学の合同研究チームによる「デジタルおしゃぶり」です。
おしゃぶりに内蔵したセンサーで、赤ちゃんのおしゃぶりを吸う動きを計測。おしゃぶりの吸いかた・強さ・吸う間隔といった情報を収集し、「お子様は寝ました」「そろそろ泣く」「そろそろおなかがすく」などの情報を保護者がスマホで受け取れるという画期的な技術が紹介されました。
今もおしゃぶりの是非について侃々諤々の議論が交わされるなかで、果たしてこれがいつ頃、どのように実用化されるかどうか、今後の展開が注目されます。