むかしはね! いまはね! どうする? 子育てギャップ

母乳? 粉ミルク?

2015.10.08

 

昔は粉ミルクがおしゃれだった

赤ちゃんを育てるおっぱい。今は「母乳がイチバン!」が常識になっていますよね。

特に産後1週間以内に分泌される「初乳」は、免疫物質が多く含まれているので、赤ちゃんに病気の抵抗力をつけさせるため、できるだけ飲ませるようにと指導されています。

そうはいっても、ママの体調不良、薬の使用、母乳の量、赤ちゃんの状態などにより、ときには母乳を飲ませられないこともあります。

そんな時には「調製粉乳」、いわゆる育児用粉ミルクの出番となります。

日本では、大正6(1917)年に国産初の育児用粉ミルク「キノミール」が和光堂より発売されました。続いて、大正10(1921)年、森永から「ドリコーゲン」、大正12(1923)年、明治から「パトローゲン」などが発売されています。

その後、二度の世界大戦を経て、母乳成分の研究、新技術の導入により、粉ミルクは母乳へと限りなく近づいていきました。

そして、昭和30年代、日本で赤ちゃんに粉ミルクを与える比率が急激に増加しました。いったいなぜ、と思いますが、この時期に分娩環境が大きく変わったことが関係しています。

それまで、出産は自宅の一室でお産婆さん(今でいう助産師)が赤ちゃんを取り上げるのが普通でした。それが産院で医師による分娩手術に移行したことで、赤ちゃんの栄養状態を管理するために、粉ミルクが与えられるようになったのです。

また、この時代、アメリカでは育児に粉ミルクを使う家庭が大半でした。映画やドラマを通じて欧米の生活に憧れていた日本のママたちは、「母乳を飲ませるより、アメリカ流に哺乳ビンでミルクを飲ませる方がかっこいい!」と思ったのでしょう。

栄養的にも母乳より粉ミルクの方が優れていると信じられ、母乳で育てると胸の形が崩れる、母乳で育てた子どもは背が伸びないなどという根拠のない噂が流れました。

その結果、昭和50年頃には、母乳の比率が、都心部では20%台にまで低下したのです。こうした事態を受け、厚生省(現・厚生労働省)は、昭和52年、「母乳栄養推進運動」を展開しました。

 

環境汚染と母乳育児

その後いったん母乳育児は増加したのですが、1990年代後半、世界的に環境問題への関心が高まるとともに、母乳育児が再び減少しました。

これは現在「母乳ダイオキシン騒動」と呼ばれています。ちょうどこの頃、先進国での環境汚染が表面化して、子どもたちのアトピーが社会問題となっていました。

平成4(1992)年に、厚生省児童家庭局の「アトピー性疾患実態調査報告書―育児不安とアトピー性皮膚炎」という報告書をもとに、NPO法人「ダイオキシン問題を考える会」が「母乳により育てられた子どもは、人工乳を与えられた子どもよりもアトピーにかかりやすい」という報告を発表しました。

これがマスコミで大きく取り上げられたため、母乳育児を早々にストップしたママたちも多かったのです。

この騒動は、平成9(1997)年をピークに2000年代前半には収束しましたが、環境汚染と母乳育児に密接な関わりがあると、一般に意識されるきっかけともなりました。

 

母乳育児は増える傾向

ユニセフと世界保健機関(WHO)は、母乳育児を中心とした新生児ケアを推進するため、全世界で「赤ちゃんにやさしい病院(Baby Friendly Hospital Initiative)」の認定に取り組んでいます。

平成3(1991)年、ユニセフと世界保健機関は共同声明として「母乳育児を成功させるための10か条」を打ち出しました。

1.母乳育児の方針を全ての医療に関わっている人に、常に知らせること
2.すべての医療従事者に母乳育児をするために必要な知識と技術を教えること
3.すべての妊婦に母乳育児の良い点とその方法を良く知らせること
4.母親が分娩後30分以内に母乳を飲ませられるように援助をすること
5.母親に授乳の指導を充分にし、もし、赤ちゃんから離れることがあっても母乳の分泌を維持する方法を教えてあげること
6.医学的な必要がないのに母乳以外のもの、水分、糖水、人工乳を与えないこと
7.母子同室にすること。赤ちゃんと母親が1日中24時間、一緒にいられるようにすること
8.赤ちゃんが欲しがるときは、欲しがるままの授乳をすすめること
9.母乳を飲んでいる赤ちゃんにゴムの乳首やおしゃぶりを与えないこと
10.母乳育児のための支援グル-プを作って援助し、退院する母親に、このようなグル-プを紹介すること

この声明を受け、平成19(2007)年、厚生労働省は『授乳・離乳の支援ガイド』を策定しました。

ここでは、「母乳育児には、①乳児に最適な成分組成で少ない代謝負担、②感染症の発症及び重症度の低下、③母子関係の良好な形成、④出産後の母体の回復の促進などの利点があげられる。(略)母乳育児については、妊娠中から『母乳で育てたい』と思う割合が96%に達していることから、それをスムーズに行うことのできる環境(支援)を提供することが重要である」と記載されています。

いま、母乳だけで育てる割合は、生まれてから5ヶ月未満まで、50%以上となっています(平成22年乳幼児身体発育調査報告書より)。
特に1~2か月未満は、母乳51.6%、粉ミルク4.6%、混合(母乳と粉ミルクの併用)43.8%という割合です。

ということで母乳育児が優勢な昨今ですが、母乳、粉ミルク、混合、それぞれにメリット、デメリットがあります。
そのときどきの情報や流行に踊らされるだけではなく、赤ちゃんにとって何がベストかを自分なりに考えて選択していきたいものです。

○平成22年乳幼児身体発育調査報告書(厚生労働省)

おっぱいの種類

(参考)

『総まとめ くるくる変わる「育児の常識」』女性セブン(編) 小学館

厚生労働省『平成22年乳幼児身体発育調査報告書』

厚生労働省『授乳・離乳の支援ガイド』

一般社団法人日本乳業協会

ベビータウン

株式会社明治 育児情報ひろば!

母乳哺育と後期近代のリスク―環境問題のリスクを中心に―関西学院大学 村田泰子

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