むかしはね! いまはね! どうする? 子育てギャップ

母乳信仰の危険性

2015.10.12

 

母乳バンクの出現

働くママなど、搾乳した母乳を冷凍保存するといった工夫で、できるだけ母乳で育てる「完全母乳」をめざす人が多くなってるようです。

しかし、母乳で育てられない母親が、育児に自信をもてなくなるという弊害も生じていて、問題となっています。

厚生労働省の「平成17(2005)年度乳幼児栄養調査」によれば、「授乳について困ったこと」として、「母乳が不足ぎみ」がもっとも多く、全体の32.5%に上っています。ついで「母乳が出ない」が15.6%。母乳育児にしたいけれど、母乳が思うように出てこないことで悩んでいるママも多いようです。

○平成17年度乳幼児栄養調査(厚生労働省)
授乳について困ったこと

こうした状況を反映して、インターネットなどに母乳の通信販売業者が出現。国内では母乳の販売に規制は設けられていないのですが、食品衛生法に抵触する商品も出回っているようです。

平成27(2015)年7月、インターネット通販で母乳を購入した女性が、国内唯一の「母乳バンク」がある昭和大江東豊洲病院と一般財団法人「日本食品分析センター」に検査を依頼したところ、母乳にはないたんぱく質「βラクトグロブリン」を検出。
脂肪や乳糖(炭水化物)は一般的な母乳の半分程度で、「水で薄めた粉ミルクに母乳を混ぜたもの」という検査結果が出ました。
さらに、母乳バンクで扱っている一般的な母乳の100〜1000倍の細菌が検出されたのです。

まだ免疫がない赤ちゃんが、こんな雑菌だらけのおっぱいを飲んだら、敗血症など重大な病気になりかねないところでした。
母乳信仰に引きずられるあまり、大切なわが子の命を危険にさらしてしまっては元も子もありません。
さらに、母乳を通じて感染する可能性がある病原体の例として、「HIV(ヒト免疫不全ウイルス)」「HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)」があります。

昭和の時代からすでに粉ミルクは改良が進んでおり、母乳で育てた子どもと粉ミルクで育てた子どもとの間に、発達上の違いはほとんど見られません。
母乳で育てられなかったとしても、ママが引け目を感じることはないのです。

 

「完全母乳」によるリスク

近年は「完全母乳」による問題も報告されています。

平成21(2009)年に日本小児体液研究会誌に掲載された関西医科大学の金子一成教授の論文によれば、欧米では母乳だけを与えられた「母乳栄養児」に血中のナトリウム濃度が高くなって起こる「高ナトリウム血症性脱水」が増えているとの報告があるそうです。

「高ナトリウム血症性脱水」が新生児に起こると、けいれんや腎不全、脳に重い後遺症を残すこともあります。

金子教授は関西医科大学病院で正常分娩した新生児を調査。その結果、完全母乳の赤ちゃんは、粉ミルクだけを与えられた赤ちゃんに比べて、「高ナトリウム血症性脱水」のリスクが有意に大きかったということです。
また、完全母乳の場合、赤ちゃんが低血糖になりやすいという報告もされています。
初産婦の場合などは特に、母乳が最初の頃は出にくいことが多く、母乳の量が不十分なために、新生児の体重が減少することで、血中のナトリウム濃度が高くなったり、低血糖になったりするのだそうです。

みなさん初乳の大切さは理解していると思いますが、もし母乳の量が十分でなかったら、混合授乳や粉ミルクへの切り替えも検討した方がいいでしょう。

 

混合授乳の注意点

混合授乳を進める場合、いくつか注意点があります。

以前は哺乳ビンに母乳を搾乳して飲ませるという方法がとられていました。
しかし、これではだんだん母乳が出にくくなってしまうので、あまりおすすめしません。

母乳は赤ちゃんが乳首を吸うという刺激を受けて、より分泌するものです。
まずは直接乳首をふくませて、足りない分を粉ミルクで補うようにします。

補う粉ミルクの分量ですが、退院してから1か月までは、一回40~80ミリリットル程度。

赤ちゃんが自分で飲む量をコントロールできるようになるのは、生後1か月半を過ぎた頃なので、粉ミルクを飲んだ後に吐き戻しが多かったり、むずかったりするようであれば、分量を減らす必要があります。

混合授乳でよくあるのは、夜寝る前に粉ミルクをたっぷり飲ませて、朝までぐっすり眠らせるというやり方ですが、これもよくありません。
母乳は夜にたくさん生産されるので、夜間に授乳をしないと、だんだん分泌量が減ってしまうからです。

新生児期(生後1か月まで)を過ぎれば、赤ちゃんも昼と夜の区別がつくようになり、夜間の授乳は次第に少なくなってきます。

ですから、最初の1か月は夜間もがんばって母乳を直接ふくませるようにして、ママの体調が悪かったり、母乳の量が足りなかったり、母乳をあげられないときは、粉ミルクを使うようにしましょう。

(参考)

『総まとめ くるくる変わる「育児の常識」』女性セブン(編) 小学館

「完全母乳」に落とし穴(2009年9月26日朝日新聞)

インターネット等で販売される母乳に関する注意 |厚生労働省

教えて! 母乳育児のキホン(コンビ)

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