むかしはね! いまはね! どうする? 子育てギャップ

子守帯(抱っこ紐)

2015.11.26

 

子守帯(抱っこ紐)

日本の子守りには、抱っこおんぶがあります。海外にも子どもをおんぶする習慣がある国はありますが、日本ほど日常的ではありません。

日本人は平安時代の昔から、母親や子守りが背中に赤ちゃんをおんぶして、子守りをしながら家事や仕事をしてきました。ただ、貴族など上流階級は、子守り役である乳母が赤ちゃんを抱っこして育てました。

長時間おんぶをするときは、赤ちゃんを背中に固定する子守帯(抱っこ紐)が必要になります。子守帯(抱っこ紐)と防寒着のねんねこ半纏は、昭和40年頃までよく見られたものです。
子守帯(抱っこ紐)は、昭和初期までは兵児帯や着物を使って、家庭内で手作りされていました。いわばリフォームですね。

これが高度経済成長期以降、経済事情がよくなり、女性が社会進出するようになったことで、家庭内で手作りすることは少なくなり、商品化された子守帯(抱っこ紐)が利用されるようになりました。

昭和28(1953)年、前身が繊維メーカーだったラッキー工業が 子守帯(抱っこ紐) の製造・販売をスタート。
前後して、アップリカ(昭和24[1949]年)、ファミリア(昭和27 [1952]年)、コンビ(昭和36 [1961]年)、など、現在も子育て用品市場を賑わす企業が次々に創業しています。

1970年代には、アメリカから「スナグリ」という抱っこ式のベビーキャリーが輸入されました。
その後、ウエストポーチタイプ(腰で支えて抱っこ)、2wayタイプ(抱っこ、おんぶ)、3wayタイプ(横抱き、抱っこ、おんぶ)など、さまざまな機能をもつ育児用品が各社から発売され、普及していきます。

なかでも画期的だったのは、平成5(1993)年にコンビが販売した「ニンナナンナ」でした。
それまで、まだ首がすわらない新生児は、子どもを寝かせた状態で使うベビーカーかベビーキャリーを使うしかなく、車がない場合の長距離の移動は大変でした。ニンナナンナは新生児から使用できる子守帯(抱っこ紐)で、抱っこ、おんぶの両方に対応し、2歳頃まで使用が可能だったのです。
また、それまでの育児用品はほとんどがファンシーなデザインであったのに対し、オフィス・ファッションにもマッチするスタイリッシュなデザインで、ママのみならずパパも使用できるものとして人気を博しました。
現在でもニンナナンナは新生児から首がすわるまでの「横抱き」、首がすわってから24ヶ月までの「縦対面抱っこ」「縦前向き抱っこ」、首がすわってから36ヶ月までの「おんぶ」の4Wayの使用に対応し、ロングセラーとなっています。

ニンナナンナ

 

スリング、エルゴベビー

2000年以降は、エコロジーやスローライフなどの流行により、よりナチュラル志向な子育てスタイルが広がりました。

一枚の布で子どもを横抱っこで包む、ワンショルダータイプの「スリング」が、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリー夫妻など海外の有名人が火付け役となってブームになりました。

平成15(2003)年には、ハワイで「エルゴベビー」という子守帯(抱っこ紐)が発売されています。
それまでの子守帯(抱っこ紐)は「肩の痛み」が避けられないものでしたが、エルゴベビーは腰と肩に赤ちゃんの重量を分散する、エルゴノミクス(人間工学)に応じたデザインだったので、日本でも人気となりました。

スリングとエルゴベビー
しかし、「スリング」は一枚の布というシンプルさゆえに、布の中で子どもが不自然な姿勢によって股関節脱臼を起こしたり、赤ちゃんが滑り落ちたりなど、安全面が問題になりました。
同様に「エルゴベビー」も海外の身体の大きい赤ちゃんを基準に作られた製品なので、落下事故が起こっています。

そして、平成27(2015)年5月から、抱っこ紐の安全基準が厳しくなりました。
これまでは抱っこ紐を緩めた状態での使用を想定していなかったのですが、乳幼児の落下事故を防ぐため、「安全商品(SG)マーク」として、紐を緩めた状態で親が前かがみになっても落下しないことを基準としています。製品表示や取扱説明書にも、「落下に注意」ではなく、「警告・落下の危険性」と明示するよう定めています。

「抱っこ紐使用時にひやりとした経験がある」と答えた人が51%というアンケート結果もあります(抱っこ紐での危ない体験 よくある瞬間ベスト5は?「ママこえ」)。

1990年代は、子守帯(抱っこ紐)は「新生児から2歳頃まで使える」というのが、商品としての大きなセールスポイントでした。
それに対し、2000年以降は、子育て中もファッションを楽しみたいというパパ・ママの意識の変化により、散歩用、通勤用、休日用など、さまざまな場面に応じて、複数の子守帯(抱っこ紐)を使い分けられるように商品構成も変わってきています。

子守帯(抱っこ紐)の使用時には、赤ちゃんの身体の状態を十分観察し、正しい使用方法を心がけましょう。

(参考)

近現代日本における育児行為と育児用品に見られる子育ての変化に関する一考察『人間生活文化研究No.24 2014』

抱っこ紐での危ない体験 よくある瞬間ベスト5は?「ママこえ」

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