子どもを自転車に乗せるときは
2016.03.31
子ども乗せ自転車の出現
幼稚園や保育所の送り迎えで、自転車の前カゴと後ろ座席に子ども2人を乗せて走る通勤姿のパパママ。朝夕おなじみの光景です。
昭和40年代後半まで、子どもを自転車に乗せる場合、後部の荷台にそのまま座らせる「2人乗り」しか方法はありませんでした。背もたれなどガードするものがないので、落下の危険があり、幼児を乗せることはあまり一般的ではなかったと思われます。
昭和49(1974)年、自転車部品専門会社の昭和インダストリーズが、幼児用座席の国内販売を開始。通常の二輪自転車に取り付けるもので、当時はまだ安全基準がなかったのですが、昭和60(1985)年に幼児用座席のSG基準が定められました。
幼児用座席を取り付けた自転車が一般的になった昭和62(1987)年、丸石自転車より「ふらっかーず」が売り出されました。
前カゴに大量の荷物を載せてもふらつかない自転車ということで、名前を「ふらっかーず」としたそうです。
最初は子ども乗せカゴはオプションの一つだったのですが、満を持して平成3(1991)年、子ども乗せ専用自転車として、「ふらっか~ず Como」を発売。昭和と平成をまたいで、国内初の子ども乗せ専用自転車が生まれました。平成6(1994)年には、幼児用座席が金属製から樹脂製に、翌年にはシートベルトを2点式から4点式に変更しています。
「ふらっかーず」のヒットに伴い、平成9(1997)年~11(1999)年、他社が相次いで子ども乗せ専用自転車の発売を開始しました。
子ども乗せ専用自転車の発売後まもなく、日本の自転車業界に革新が起こります。電動アシスト自転車の登場です。
平成5(1993)年、世界発の電動アシスト自転車「YAMAHA PAS」がヤマハより発売されました。重量は通常の自転車の約2倍の31kgで、充電時間10時間で走行距離が20km。今の電動アシスト自転車と比べると見劣りするスペックですが、1年間に3万台が売れたヒット商品となりました。
子どもを乗せて自転車を運転すると、こぎ出しや上り坂などがきつく、ハンドル操作を誤りやすいため、安全のために電動アシスト車に乗り換えたママも多かったようです。
マーケティング調査を行うジーエフケー・ライフスタイルトラッキング・ジャパンによれば、全国のスーパー、ホームセンター、家電量販店での電動アシスト自転車の売上として、子ども乗せ電動アシスト自転車の比率は、平成25(2013)年は17%でしたが、平成26(2014)年は24%、平成27(2015)年は27%と上昇しています。
子ども乗せ電動アシスト自転車は付属品が多く、ターゲットが若い母親であるため、デザイン性が高いものが求められるなどで、一般の電動アシスト自転車に比べて価格が高いのですが、年々需要が伸びているとのこと。
子ども乗せ自転車、電動アシスト自転車の普及とともに、自転車止めにも新たな規格が必要となり、駐輪場も様変わりするなど、自転車業界全体が変革を迫られるなか、法整備も進んでいます。
子どもの2人乗せが認められるまで
日本では、道路交通法第57条第2項に基づき、各都道府県公安委員会規則で二輪の自転車に乗る人数は制限されています。特に幼児2人を乗せた「3人乗り」は長年禁じられていました。
平成19(2007)年に、警察庁が自転車の3人乗り禁止(各都道府県の公安委員会規則)に乗り出したところ、小さい子どもをもつ母親らから強い反対の声が上がりました。そこで、警察庁は「幼児2人同乗用自転車検討委員会」を設け、幼児2人同乗用自転車に関する議論を重ねてきたのです。
その結果、平成21(2009)年7月、安全基準を満たす自転車に限り、幼児2人を同乗することが解禁になりました。
各自治体の規則によって違いがありますが、自転車に子どもを乗せてもよい例として、以下のケースがあります。
○子ども1人を乗せてもよい例
16歳以上の運転者は、幼児用座席を設けた自転車に6歳未満の幼児を1人に限り乗車させることができます。
16歳以上の運転者は幼児1人を子守帯(おんぶ紐)等で背負って運転できます。
※「前抱っこ」は禁止している自治体(東京、埼玉、千葉など)が多いので、事前に確認してください。
一般の自転車に幼児用座席を取り付ける場合、その自転車が子どもを乗せるのに十分な強度かどうかも確認する必要があります。安全基準を満たしている自転車には、一般社団法人自転車協会の「BAAマーク」や一般財団法人製品安全協会の「SGマーク」がついています。
そうした自転車には、荷台(キャリア)に強度基準が設定されていて、「クラス25」以上ならば、幼児用座席の取り付けが可能です。
○子どもの2人乗りが認められるケース
16歳以上の運転者は、幼児2人を同乗させることができる「幼児2人同乗用自転車」に6歳未満の幼児2人を乗車させることができます。
※幼児2人を乗車させた場合、運転者は幼児を背負って運転すること(4人乗り)はできません。
「幼児2人同乗用自転車」とは、強度、制動性能、駐輪時の安定性、フレーム等の剛性、走行中の振動防止、発進時の安定性など、幼児を2人乗せても安全に走行できる自転車です。
安全性が認証された自転車には、「BAAマーク」や「SGマーク」のほかに、「幼児2人同乗基準に適合していること」を示すシールが付いているので、購入時には確認してください。
自転車の運転ルール
平成27(2015)年6月から道路交通法の改正により、自転車の交通ルールが、これまでよりぐっと厳しくなっています。
以下の14項目の危険行為をした運転者は、警察官から指導・警告を受け、従わない場合には交通違反切符を交付されます。2回以上の交付で講習の対象となり、受講しないと5万円以下の罰金が科せられます。
<自転車の悪質運転危険行為>
1.信号無視
2.通行禁止違反
3.歩道での徐行違反など
4.通行区分違反
5.路側帯の歩行者妨害
6.遮断機が下りた踏切への立ち入り
7.交差点での優先道路通行車の妨害など
8.交差点での右折車優先妨害など
9.環状交差点での安全進行義務違反など
10.一時停止違反
11.歩道での歩行者妨害
12.ブレーキのない自転車運転
13.酒酔い運転
14.安全運転義務違反
たとえば、携帯電話を使用しながらの運転は、14「安全運転義務違反」に該当し、摘発の対象となります。
警察庁では平成19(2007)年より「自転車安全利用5則」を作り、親子安全教室などで教えています。「5.子どもはヘルメットを着用」は、子どもが単独で自転車に乗るときのみならず、子ども乗せ自転車の幼児用座席に乗せるときにも当てはまります。
便利で手軽な移動手段である自転車。その反面、自転車が関連する交通事故は全体の約2割を占めています。自分自身と子どもの安全のためにも、この5則を守るように心がけましょう。
<自転車安全利用5則>
1.自転車は車道が原則、歩道は例外
道路交通法上、自転車は軽車両と位置付けられています。したがって、歩道と車道の区別がある所は車道通行が原則です。
2.車道は左側を通行
自転車は道路の左端に寄って通行しなければなりません。
3.歩道は歩行者優先で、車道寄りを徐行
歩道では、すぐに停止できる速度で、歩行者の通行を妨げる場合は一時停止しなければなりません。
4.安全ルールを守る
飲酒運転・2人乗り(原則)・並進は禁止、夜間はライトを点灯、信号を守る、交差点での一時停止と安全確認。
5.子どもはヘルメットを着用
児童・幼児の保護責任者は、児童・幼児に乗車用のヘルメットをかぶらせるようにしましょう。
パパチャリの出現
子ども乗せ自転車を含む女性向けの二輪自転車、いわゆるママチャリでは、自転車マニアのパパたちは満足できない! という声があり、近年「パパチャリ」という定義の自転車が出現しています。
株式会社あさひでは、男性誌『Daytona (デイトナ)』、東京・小平市の自転車ショップ、チムチムレーシングとの共同開発により、「パパチャリ」として「88 CYCLE(ハチハチサイクル)」を、平成28(2016)年5月上旬、販売開始予定。
「安心感が高いピックアップトラックのようなイメージ」の自転車ということで、最初から子ども用の座席がついているわけではなく、大き目の後ろの荷台にカゴを取り付けるなどで、自分でカスタマイズして完成というコンセプトとなっています。価格は69,980円(税込)で、3人乗り対応のママチャリよりは高く、電動アシスト自転車よりは安いという値ごろ感で、イクメンの注目を集めています。
(参考)
自転車はルールを守って安全運転~自転車は「車のなかま」~|警察庁利用者ニーズに基づく自転車の開発に向けた調査検討報告|財団法人日本自転車普及協会