むかしはね! いまはね! どうする? 子育てギャップ

抱き癖

2015.09.16

 

すぐに抱いたら抱き癖がつく?

じいじ・ばあば世代が子育てをしていた頃は、赤ちゃんが泣いていると、「泣いてすぐに抱くと、『抱き癖』がつくから、泣き止むまでしばらく放っておきなさい」と言われたことがあると思います。

「抱き癖がつくから、泣いても抱っこをしない」と言われるようになったのは、『スポック博士の育児書』という本が強く影響しています。

アメリカの小児科医ベンジャミン・スポックが1946年に刊行した『スポック博士の育児書』は、世界中で大ベストセラーとなりました。

日本では昭和41(1966)年に翻訳出版されています。

スポック博士が提唱したのは、子どもの自立心を養うために、徹底的に母親と赤ちゃんを引き離すことでした。

具体的には、

・抱き癖がつくので、泣いても抱っこをしてはいけない。

・赤ちゃんが求めても時間が来るまで授乳をしてはいけない。

・添い寝をしてはいけない。

・母乳より人工乳を飲ませる。

・早く乳離れをして離乳食とする。

・親と子の寝室は別にする。

というアメリカ流の育児方法です。

1980(昭和55)年には、厚生省(現・厚労省)が母子手帳に『スポック博士の育児書』の育児理論を導入しました。

これにより、現在のじいじ・ばあば世代が子育てをする頃に「抱き癖がつくから、泣いても抱っこをしない」という考え方が広まったのです。
 

サイレント・ベビー

平成2(1990)年、日本の小児科医、柳沢慧による『いま赤ちゃんが危ない―サイレント・ベビーからの警告』が刊行されました。

著者の柳沢先生は、にぎやかなことが常識だった小児科の待合室が急に静かになったことに違和感を覚え、静かであまり泣かず、表情に乏しい赤ちゃんを「サイレント・ベビー」と名付け、問題提起しました。

当時マスコミが大きく取り上げたため、「サイレント・ベビー」という言葉が国内で広まりました。

柳沢先生は、赤ちゃんが泣かない、笑わないのは、自分の気持ちを表そうとしていない、周りの人間とのコミュニケーションをとろうとしていない危険な兆候であるとし、将来的に情緒上の深刻な問題が発生するだろうと警告しています。

日本では「サイレント・ベビー」という言葉自体は、その後急速に広がったADHDなどの新しい自閉症の概念の陰に埋もれてしまいました。

しかし、サイレント・ベビーを生み出す要因と指摘されたアメリカ流の育児法は否定され、赤ちゃんは積極的に抱っこしてもいい、添い寝・母乳を推奨、離乳を急ぐ必要はないという考え方が現在主流になっています。

その一方で、平成26(2014)年以降はフランス式という子育て法がブームになっています。

その元になっているのが、『フランスの子どもは夜泣きをしない パリ発「子育て」の秘密』です。

一例をあげると、

・親子の部屋は別室にするけれど、常時ベビーモニターで観察する。

・寝ている赤ちゃんが泣き出したら、すぐに抱き上げたりあやしたりせずに観察して、5~10分待つ など。

このフランス式子育てはブームになって間もないので、これが果たして最適な育児法かどうか、十分検証する時間が必要です。

このように、時代によって育児理論も180度転換することがあります。

過去の失敗や間違いを学んだうえで、巷にあふれるたくさんの情報に振り回されることがないよう、普段から情報を取捨選択し、自分なりの考え方をしっかり持つことが大事ですね。

じいじ・ばあば世代が子育てをやり直すことは残念ながらできないでしょうが、いまの子育て現役世代はじいじ・ばあばとの意見の食い違いの解決も、これからの道を選んでいくこともできます。

子どもはいくつになっても自分の子ども。懐深く受け入れるようにしたいですね。

(参考)

『総まとめ くるくる変わる「育児の常識」』小学館

『フランスの子どもは夜泣きをしない パリ発「子育て」の秘密』パメラ・ドラッカーマン:著、鹿田昌美:訳 集英社

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