むかしはね! いまはね! どうする? 子育てギャップ

学校の健康診断

2016.07.21

 

学校健康診断の始まり

日本の学校の健康診断の始まりは、明治21(1888)年に実施された「活力検査」と言われています。このときの検査項目は、体長・体重・臀囲(でんい)・胸囲・指極(しきょく)・力量・握力・肺量でした。

「指極」とは聞き慣れない言葉ですが、両手をいっぱいに広げたときの、右手の指先から左手の指先までの長さを指します。

その後、明治30(1897)年「学生生徒身体検査規程」、昭和12(1937)年「学校身体規定」、昭和19(1944)年の「学校身体検査規定」を経て、昭和33(1958)年に「学校保健法」が制定されました。
このときに、身長・体重・胸囲・座高、栄養状態、脊柱・胸郭、視力・色神・聴力、眼疾・耳鼻咽頭疾患・皮膚疾患、歯の疾病、結核、寄生虫卵、その他の疾病という、学校健康診断での検査項目がほぼ出そろいました。
これらの検査項目はその後何度か見直されています。

直近でいうと、平成23(2011)年度、文部科学省は全国の幼稚園、小学校、中学校、高等学校約1万校を対象に「今後の健康診断の在り方に関する調査」を行いました。
そこで各学校現場から「省略してもよい」という声が挙がった検査項目の第1位が「座高」 (18.1~36.6%)、第2位が「寄生虫の有無」(6.2~18.8%)でした。
この結果を踏まえ、有識者を集めた「今後の健康診断の在り方等に関する検討会」で検査項目の見直しが行われたのです。

そして、平成26年4月に学校保健安全法施行規則の一部が改正され、学校健康診断の検査項目から「座高」と「寄生虫卵の有無」が削除されることになりました。
また、新たに「四肢の状態」が必須項目に加わり、「脊柱及び胸郭の疾病及び異常の有無並びに四肢の状態」の検査、いわゆる「運動器検診」が実施されることになりました。

 

廃止になった「座高」と「ぎょう虫検査」とは?

今回廃止になった「座高」は平成12(1937)年、「寄生虫の有無」は昭和33(1958)年より実施されていた検査項目です。

「座高」とは、椅子に上体をまっすぐにして腰掛けたときの、椅子の面から頭頂までの高さで、座高検査専用の測定器で測ります。

文部科学省では、座高測定について、「個人及び集団の発育、並びに体型の変化を評価できる」「生命の維持のために重要な部分(脳や各種臓器)の発育を評価できる」「子どもの発育値について統計処理をすることによって、集団の発育の様子が分かる」という3つの意義を挙げています。

ところが、「今後の健康診断の在り方に関する調査」では、学校現場から、「意味がない、必要性がない」「測定した結果を活用することがない」「椅子や机の調整には、座高よりも身長によって決めたり、実際に座って確認している」などの意見が寄せられました。

これにより、78年の長きにわたり学校健康診断で行っていた座高測定が廃止に。
このことは、学校関係者や子どもの保護者のみならず、ネットからも多くの驚きの声が上がりました。

そりゃそうですよね。慣例で行ってきたとはいえ、これまで膨大な時間と費用と手間を費やしてきたわけですから。学校関係者でなくても、なんだかドッと徒労感に襲われます。

続く「検査を省略してもいい項目」第2位の、「寄生虫の有無」を調べる「ぎょう虫検査」ですが、これはこれまで小学3年生以下の子どもに義務づけられていた項目です。
検査は2日間、2回にわたって行うため、検査用のセロファンテープが各家庭に配布され、保護者もしくは子ども本人が肛門にテープを貼って、それを学校に提出するという方法がとられました。
ぎょう虫検査用のセロファンテープは、「ピンテープ」「ポキール」「サノテープ」「ウスイ式」などの商品があり、説明書に描かれたキューピー似のイラストを覚えているという人も多いのでは?

文部科学省によると、小学生の寄生虫卵の保有率は、祖父母世代(昭和33年度)が29.2%父母世代(昭和58年度)が3.2%子世代(平成25年度)は0.2%と激減しています。過去10年の検出率は1%以下でした。
このため、学校現場からは「(寄生虫卵は)発見されることが少ない、発見されたことがない」「感染拡大のおそれも少なく、学校生活において特に支障がないと思われる」「異常を感じたら家庭の責任で受診すればよい」などの意見が挙がっていました。

こうした意見を参考に、「ぎょう虫検査」も平成27年度で廃止に。
しかし、寄生虫卵については地域性があるため、文部科学省では、「陽性者が多い地域においては、今後も検査の実施や衛生教育の徹底などを通して、引き続き、寄生虫への対応に取り組むべきである」としています。

 

運動器検診の内容

「座高」と「寄生虫卵検査」にかわり、平成28年度から小学校から高校まで、学校健康診断での「運動器検診」が義務となりました。

運動器とは、骨や筋肉、関節、腱、神経など身体を支えたり、動かしたりする器官の総称です。

「運動器検診」の流れは以下のとおり。

①保健調査

1)保健調査票を全学年に配布。
家庭で保護者が保健調査票に従い、調査結果を書き入れます。
2)養護教諭、担任等による保健調査票・問診票チェック
3)体育、部活動等、日常の健康観察等の情報整理

②検診

4)学校医による検査(脊柱・胸郭・四肢の状態)
・異常がみられた場合
→5)必要に応じた検査を実施
・異常が見られない場合
→3)運動器検診終了

③事後措置

6)整形外科医への受診勧告(学校医)
7)医療機関受診報告書に基づく事後措置(管理・指導)

学校健康診断に「運動器検診」を導入した大きな要因となったのは、今の子どもたちは、スポーツ少年団やクラブチームなどに所属することで、スポーツ障害を起こしている運動過多の子どもが増加する一方、室内でゲームばかりしていて、跳び箱で手をついただけで骨折するなど運動不足の子どもが多いという、極端な二極化だそうです。

「うちの子どもにはスポーツをさせているから、健康体のはず」と安心しているようでは、認識が甘いといえるのかもしれません。これまでの調査研究から、何らかの運動器疾患・障害をもつ子どもが1~2割いると推定されています。

運動器検診の実施により、家庭、学校、医療機関の3つが連携して、子どもの運動器の異常を早期発見できるシステムができあがったといえるでしょう。

ここに、家庭で行う調査項目の一部を例として示しました。

運動器の10年|運動器(脊柱・胸郭,四肢,骨・関節)についての保健調査票より

運動器検診

実際に子どもに行う前に、自分で一通り試しておくと、観察すべきポイントが理解しやすくなります。夫婦・親子などペアで行ってみてはいかがでしょう。

(参考)

第6回今後の健康診断の在り方等に関する検討会資料|児童生徒の健康診断項目について

東京新聞|学校の健康診断で「運動器検診」家で事前チェック 治療につなぐ暮らし(TOKYO Web)

学校における運動器検診を進めるに当たって 平成27年度改訂版|岐阜県学校保健会

運動器の10年|運動器(脊柱・胸郭,四肢,骨・関節)についての保健調査票

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