むかしはね! いまはね! どうする? 子育てギャップ

歩行器(ベビーウォーカー)

2016.02.04

 

歩行器のはじまり

昔は、つかまり立ちしかできない赤ちゃんの歩く訓練のために、キャスターがついた補助器具である「歩行器」が使われていました。
今でも歩行器(ベビーウォーカーとも呼ばれます)はありますが、歩く訓練のためというより、おもちゃとして使われています。

世界で最初に赤ちゃん用の歩行器が使われ始めたのは、15~16世紀のヨーロッパでした。欧米では昔から子どもは「小さな大人」として扱われ、早いうちに一人で歩けるようになることが期待されていました。そのため、歩行訓練用に「歩行器」が開発されたのです。

日本では明治期に歩行器が伝わり、明治40 年代に国内で市販されたという記録が残っています。
昭和23(1948)年、児童福祉法が制定された際には、保育所の設備として「歩行器及び手押車を備えること」と定められました。手押車とは、いわゆる「カタカタ」のことです。

そして、第二次ベビーブームを迎えた1970年代、歩行器が一気に普及しました。昭和52(1977)年には歩行器の生産量が年間約68万台となり、約3人に1人の赤ちゃんに買い与えられたと言われています。

 

歩行器の問題点

じいじ・ばあば世代が子育てをしていた時代、歩行器がブームになる一方で二つの問題点が浮上しました。一つは乳幼児の発達への影響、もう一つは使用による事故です。

歩行器の運動機能の発達への影響については、日本を含めた各国で研究が行われています。現在まで、歩行器によって運動機能が発達したという報告はなく、海外では「歩行器を使用していた子どもの方が、使用していない子どもよりも発達が遅れた」という研究報告が多く出されています。(例:Garrett, M., McElroy,A. M., & Staines, A.(2002))

歩行器の使用による事故については、日本では昭和57(1982)年、国民生活センターが『乳幼児の歩行器事故解析委員会報告書』をまとめました。昭和55(1980)~57(1982)年、同センターに寄せられた歩行器による事故は63件。この報告書では「歩行器は乳児の発育にとって有害無益である」と結論づけています。

歩行器を使用中の事故は、階段からの落下、転倒などが多く、頭部外傷など重症化しやすいので、小さな子どもにとって大変危険です。アメリカでは1973~1999年の27年間で39件の死亡事故が報告されています。

このため、現在は各国で歩行器の使用を抑制する動きとなっています。2004年、カナダ保健省は歩行器を全面禁止にしました。
アメリカでは1990 年代より小児科医らが歩行器の使用禁止を訴え、事故を警告する表示が歩行器に貼られるようになりました。
シンガポールでは、事前に看護師が歩行器の事故についてレクチャーするようになったことで、歩行器の使用率が減少しています。

かつて歩行器は、赤ちゃんがハイハイで入ってしまう場所を制限し、触ってほしくないものや危ないものから遠ざける、ベビーサークルの役割も果たしていました。
そういった大人の都合ではなく、発生しうる事故の危険性を考えると、歩行器を利用する必要はないといえるのではないでしょうか。

日本ではSGマークの基準で歩行器を使用できる月齢を「7か月齢以上15か月齢未満」と設定していますが、この基準に沿った使用をしていないという実態報告もあり、歩行器が乳幼児の成長の妨げになっていることも考えられます。

赤ちゃんがハイハイするようになり、つかまり立ちをし、伝い歩きをして、やがて一人歩きできるようになるまで、周りの大人は安全な環境を整え、焦らずに成長を見守っていくことが大事です。

(参考)

乳児の歩行発達への生態学的アプローチ 早稲田大学大学院 人間科学研究科白神敬介

赤ちゃんの歩行器はいつから?必要?使い方の注意点は? – こそだてハック

『孫育てじょうず―幸せ祖父母になるためのアドバイス』主婦の友社

『子育てハッピーアドバイス 初孫』明橋大二 (著)、吉崎達郎 (著)、1万年堂出版

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