ほめる? 叱る? しつけ
2016.04.14
しつけの悩み
近年、近親者による子どもの虐待死事件が相次いで起こっています。「しつけ」と称して、殴る、蹴るなどの暴力行為により子どもを死亡させる事件が頻発していて、「しつけ」の意味を再考せずにはいられません。
「しつけ」とは、「①作りつけること。②礼儀作法を身につけさせること。また身についた礼儀作法。③嫁入り。奉公。④縫い目を正しく整えるために仮にざっと縫いつけておくこと。⑤(稲の苗を縦横に正しく、曲がらないように植えつけることから)田植。」と定義されています(『広辞苑』より)。
家庭で幼児に行うしつけは、礼儀作法というより食事、排泄、着替え、歯みがきなどの基本的生活習慣を身につけさせることです。
赤ちゃんの頃はママなど保護者に全部やってもらっていたことを、少しずつ一人でできるように教えていくのですが、なかなか思うように進まず、悩むことも多いようです。
子育て情報のポータルサイト、ハッピー・ノートドットコムのWeeklyゴーゴーリサーチでは、第169回(2004年5月20~26日)と、第692回(2015年3月19~25日)に「“しつけ”どんなことに悩んでる?」というテーマで調査を行っています。
「子どものしつけで苦労していること、また以前苦労したこと」という質問(複数回答)では、12年前は、「食事中のマナー」54.3%、「トイレトレーニング」49.4%、「おもちゃの片づけ」45.7%、「我慢すること」43.4%、「歯みがき」41.1%が上位5項目でした。
一方、最近の調査では、「食事中のマナー」46.6%、「我慢すること」36.0%、「おもちゃの片づけ」34.0%、「歯みがき」23.1%、「お友達との関わり方」22.6%が上位5項目でした。
しつけの悩みのトップは「食事中のマナー」で変わらず、その他も大体同じ項目が上位に上がっています。そんな中で「トイレトレーニング」が減少している点が注目されます。おむつ外しに対するプレッシャーがこの10年でだいぶ減ったものと見ていいでしょう。
同様の傾向が現れているのが、ベネッセ教育総合研究所による「幼児の生活アンケート」です。平成7(1995)年より5年ごとに首都圏の0歳6か月~6歳の乳幼児の保護者を対象に郵送での調査を行っています。
平成27(2015)年の調査でも、1歳6か月~3歳11か月の子どもの「排泄に関する自立」がやや遅くなっている傾向が顕著に表れており、「排泄の自立を急がせない風潮を背景に、保護者の意識や子どもへの関わりが変化していると考えられる」と分析しています。
同調査での「子どものしつけや教育の情報をどこから(誰から)得ていますか」という質問では、多い順に「母親の友人・知人」72.0%、「インターネットやブログ」63.3%、「テレビ・ラジオ」54.9%、「(母方の)祖父母」43.1%、「園の先生」41.3%などでした。
この質問では年代による特徴があり、20代は「(母方の)祖父母」61.6%、「インターネットやブログ」71.7%、30~40代は「母親の友人・知人」72.4~73.0%、「園の先生」41.3~45.1%を頼りにする傾向が見られました。つまり、若いママは自分の両親とネット、年長のママはママ友や幼稚園・保育所の先生に、しつけの相談をしているようです。
ほめる? 叱る? 時代とともに変化する“しつけ”
子どものしつけは家庭中心に行われますが、幼稚園・保育所に入園(入所)後は、その園(所)の方針を受け入れることとなります。
近年は生後数か月の0歳児から保育所に入る子どもも増えており、幼稚園の先生や保育士の教育方針やしつけの考え方に、パパ・ママは強い影響を受けます。
日本では、「保育の質の向上」を目的として、昭和63(1988)年に全員が同じ活動を行う「一斉保育」から、個々の子どもの興味や関心に基づいて活動させる「自由保育」が取り入れられました。
子どもの自発性を尊重し、大人はサポート役となる「自由保育」は、ドイツの教育学者フリードリヒ・フレーベルの思想が元となっています。平成10(1998)年には幼児教育指導要領、保育所保育指針が改訂となり、全国で「自由保育」が行われるようになりました。
こうした保育の変化が家庭でのしつけにも影響し、「叱らない子育て」が一時流行しました。
「自由保育」や「叱らない子育て」において、子どもが何をしても指導しない、叱らないのは、保育や育児の放棄であり、間違った解釈です。しかし、そうした解釈が一部に広がったことで、子どもがみんなと同じ行動ができない、静かに座っていられないなどの問題が全国の幼稚園・保育所で発生し、平成11(1999)年頃の小学校の学級崩壊につながっていったともいわれます。
こうした幼児教育や子育て観の変化に伴い、平成12(2000)年頃から「ほめる・叱る」をテーマとする育児書が急激に増加しました。著者は幼児教育教員養成校の教員、小児科医、心理学者、子育て経験者などさまざまです。
平成18(2006)~19(2007)年には、『叱らないしつけ』、『叱らない子育て』などのタイトルの本が立て続けに発刊されました。
近年は子どもをまったく叱らないのではなく、叱らない環境づくりや叱らない関わり方を提唱する方向性へと変わっています。
一方、「ほめる」については、子どもをほめることを全面的に肯定する本と、「ほめることが子どもの心の負担になる」など「ほめることの危険性」を説く本が、育児書コーナーに同時に並べられています。
そして、近年は心理学者アドラーの思想をベースにした「ほめない・叱らない」育児書が続々と出版されています。
これでは、「子どもはほめれば(叱れば)いいの、だめなの、どっち?」と、子育て中のパパ・ママが混乱するのは無理もないですね。
ただひとつ確かなことは、子どものしつけは、戦前までは子どもを社会化させるための訓練や矯正であったのに対し、現在のとらえ方は、親子の間に信頼関係があることを前提として、子ども自身に「どうしてそれをしなければいけないのか」を根気よく理解させて身につけさせる方法だということです。
そうした場面では、「ほめる・叱る」はしつけの一部分に過ぎません。叩いたり、大声で怒鳴ったりなどの暴力や威圧的行為は論外です。しつけと体罰は切り離してとらえる必要があります。
しかし、親になったとはいえ、パパもママもまた人の子。ときには感情的になって、子どもに怒鳴ってしまうことがあるかもしれません。
もしもパパ・ママがしつけで悩んでいたなら、じいじ・ばあばは批判的な意見はひとまず胸にしまって、人生の先輩として話を聞くことに徹しましょう。
そこでもしも意見を求められたら、自分の子育てでの失敗談をひとつ話してみてはいかがでしょう。「こうしなさい・ああしなさい」と指図するよりも、ずっと心に響くアドバイスになると思いますよ。
(参考)
“しつけ“どんなことに悩んでる?|第169回|ハッピー・ノート.com“しつけ“どんなことに悩んでる?|第692回|ハッピー・ノート.com
【日本】「子ども中心の保育」―保育実践の顕れの文化差|内田伸子|Child Research Net
育児書・育児雑誌におけるしつけに関する考え方の分析―「叱る」「ほめる」に着目して|石川真由美|愛知教育大学幼児教育研究第17号