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妊娠中に注意すべき病気

2016.02.18

 

妊娠中毒症

昔から妊娠中に起こるトラブルで、もっとも警戒されていたのが「妊娠中毒症」です。4世紀に「医学の祖」であるヒポクラテスが、「妊婦を死なせてしまう急性の病気がある」と書き記したものが、妊娠中毒症と言われています。妊娠中毒症という名前の由来は、妊娠することによって身体に毒素が生じ、その影響で病気になると考えられたからです。

日本では50年前は妊娠中毒症が原因で亡くなる人が年間約2000人もいました。しかし、1960年代以降、医療機器や薬剤などの開発が進み、妊娠中毒症による妊婦の死亡率は減っていきました。

現在、妊娠中毒症による死亡者数は年間約20人程度に減少していますが、今でも警戒すべき病気であることに変わりはありません。

妊婦健診では「体重測定」、「血圧測定」、「尿検査」、「浮腫(むくみ)」の検査が行われます。

以前は、「高血圧」、「尿タンパク」、「浮腫(むくみ)」のいずれか一つの症状が見られた場合、妊娠中毒症と診断され、症状が重い場合は入院という措置がとられました。

その後研究が進み、妊娠中毒症の三大症状であった「高血圧」、「尿タンパク」、「浮腫(むくみ)」のうち、母子にとって生命に危険を及ぼす異常は「高血圧」であることがわかってきました。

そのため、平成17(2005)年から、妊娠中毒症は「妊娠高血圧症候群」に名称が変わりました。

 

妊娠高血圧症候群

現在の診断では、妊娠20週~分娩後12週までに高血圧になった場合、「妊娠高血圧症候群」と言われます。高血圧に加えて、尿タンパクの症状がある場合は、「妊娠高血圧腎症」となります。

高血圧の判定基準は、収縮期血圧が140mmHg以上(重症では160 mmHg以上)、あるいは拡張期血圧が90mmHg以上(重症では110 mmHg以上)。

尿タンパクは、30mg/dl以上(1日あたり0.3g以上)。200mg/dl以上(1日あたり2g以上)の場合は重症です。

現在、妊娠高血圧症候群は妊婦の約20人に1人の割合で発生しています。妊娠32週以降に発症することが多いのですが、妊娠32週未満で発症した場合、「早発型」と呼ばれ、重症化しやすくなります。

重症になると、母親はけいれん発作(子癇)、脳出血、肝臓や腎臓の機能障害、肝機能障害に溶血と血小板減少を伴うHELLP症候群などを引き起こすことがあります。

お腹の中の赤ちゃんへの影響としては、発育が悪くなったり、胎盤が子宮の壁からはがれて赤ちゃんに酸素が届かなくなったり、赤ちゃんの状態が悪くなったり、場合によっては赤ちゃんが亡くなってしまうなど、母子共に生命に危険を及ぼすので、できるかぎり妊娠高血圧症候群にならないように気をつけなければいけません。

<妊娠高血圧症候群になりやすい人>

・糖尿病、高血圧、腎臓の病気がある

・肥満や妊娠で体重が増えすぎた人

・家族に高血圧の人がいる

・40歳以上での初産

・双子などの多胎妊娠

・ハードワークやストレスが多い

ひと昔前まで「妊娠中毒症」、今は「妊娠高血圧症候群」と呼び名は変わりましたが、妊婦にとっておそろしい病気であることは変わりありません。

「標準より体重が増えすぎたから」と、体重を減らすために食事量(水分量)を減らしたり、血圧を下げるために塩分を減らすなど、素人判断で適当な食事制限を行うと、妊娠高血圧症候群のリスクが高くなります

まだ決定的な予防法は見つかっていないのですが、日本産婦人科学会では「かかりつけの医師の健診をきちんと受診し、適切な周産期管理を受けることが最も大切です。なお、水分摂取制限や利尿剤は血栓症のリスクを高め、過度の塩分制限については否定されているので、必ず医師の指導のもと管理を受けて下さい」と呼びかけています。

(参考)

妊娠高血圧症候群:病気を知ろう:日本産科婦人科学会

妊娠高血圧症候群Q&A 日本妊娠高血圧学会

妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)の症状・原因・予防法 [婦人病・女性の病気] All About女性の病気ガイド 清水 なほみ

「妊娠中毒症」から「妊娠高血圧症候群」に [妊娠の基礎知識] All About妊娠・出産ガイド 河合 蘭

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