むかしはね! いまはね! どうする? 子育てギャップ

予防接種とワクチンギャップ

2016.01.28

 

日本の予防接種のはじまり

じいじ・ばあばが子どもだった昭和30~40年代、急性灰白髄炎(ポリオ)、ジフテリア、百日咳、破傷風、麻疹、風疹、日本脳炎、種痘(天然痘)、結核(BCG)の予防接種が行われていました。
今でも、結核(BCG)の接種による3✕3に並んだ針痕や、種痘(天然痘)の接種で赤く盛り上がった痕が上腕に残っている人も多いのではないでしょうか。

伝染性のある病気(感染症)を予防するために、ワクチン(病原体や細菌の毒性を弱めた薬液)をあらかじめ接種(注射)しておけば、体内に抗体(免疫)ができて、病気の発症を食い止めたり、症状を軽くしたりできます。これが予防接種です。

日本では、予防接種は「予防接種法」という法律に基づいて行われています。
予防接種法は、国が市町村長等に予防接種を実施させるための法律として、昭和23(1948年)に制定されました。

予防接種には、予防接種法で接種が義務づけられている定期接種」と、個人(未成年の場合は保護者)が接種をするかどうかを決める任意接種」があります。費用を負担するのは、定期接種は地方自治体、任意接種は個人(保護者)となります。つまり、任意接種は自分でお金を支払わなければ受けられないわけです。

種痘(天然痘)は昭和51(1976)年に定期接種が廃止となり、昭和55(1980)年に世界保健機関(WHO)が「地球上からの天然痘根絶宣言」を発したことにより、任意接種も行われなくなりました。

その後、感染症の患者、死亡者数が激減したことで、平成6(1994)年に予防接種法の大幅改正が行われました。感染症予防に関する考え方が、集団接種から個別接種義務接種から努力義務接種に変わったのです。昔は学校などで子どもの予防接種を一斉に行っていたのですが、かかりつけの医師による個別接種に切り替わったのがこの頃です。

 

ワクチンギャップの解消

ところで、みなさんは「ワクチンギャップ」という言葉を聞いたことはありますか?
日本は他の先進国に比べて予防接種制度が遅れていると言われており、他の多くの国で接種が行われているB型肝炎、おたふくかぜ、ロタウイルス、インフルエンザなどが任意接種となっています。
また、複数の予防接種を同時に行うことがほとんど認められていないため、乳児期には何度も予防接種を受けに行かなくてはならない状況です。こうした問題がワクチンギャップと呼ばれています。

日本の懸案だったワクチンギャップの解消を図るため、平成25(2013)年、予防接種法の幅広い見直しが行われました。
このとき定期接種に新たに追加されたのが、ヒブ (Hib)ワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン、ヒトパピローマウイルス(子宮頸がん)ワクチン(女子中高生対象)です。

ヒブ(Hib)は別名「インフルエンザ菌b型」といいますが、毎年冬季に流行するインフルエンザとはまったく異なるものです。ヒブが脳を包む髄膜について炎症を起こすと細菌性髄膜炎(昔は「脳膜炎(のうまくえん)」と呼んでいました)を発症します。ヒブ同様、肺炎球菌も細菌性髄膜炎を引き起こします。

ヒブ (Hib)ワクチンや小児用肺炎球菌ワクチンが導入される前は、年間約1,000人の子どもが細菌性髄膜炎にかかっていました。そのうちヒブが約600人、肺炎球菌が約200人で、死亡例も毎年50人近く発生していました。

ヒブや肺炎球菌に感染した場合、入院して抗菌薬(抗生物質)で治療するのですが、近年は薬が効かない菌(耐性菌)が増えているために、死亡や脳障害などの後遺症が残ってしまう例が多く見られるようになりました。こうした状況から、ヒブや肺炎球菌の予防接種が待ち望まれていたのです。

世界では、ヒブワクチンは約20年前から、小児用肺炎球菌ワクチンは約10年前から使用されていました。日本では平成20(2008)年12月に海外より導入され、販売開始後5年で定期接種となりました。これは予防接種制度が始まって以来のスピード認可です。

さらに、結核(BCG)の接種は、平成17(2005)年までは4歳未満を対象に行われていましたが、世界保健機関(WHO)の勧告等を受け、同年に生後6か月までに引き下げられました。
しかし、近年、乳児期に接種するワクチンの数が増え、すべてのワクチンを接種できるように十分な期間を設ける必要が生じたことから、平成26(2014)年から、生後1年未満(生後5か月以降8か月未満を推奨)となりました。
平成26(2014)年には、水痘(水ぼうそう)ワクチンも定期接種になっています。

このように、ここ数年でワクチンギャップの解消が一気に進んでいます。子どもにも保護者にも喜ばしい状況ですが、それでも一安心とはいかないのがつらいところ。なにしろ予防接種のスケジュールはもはや過密といってよいほどですから。

2016年1月現在、生後2か月ぐらいから、少なくとも11種類の予防接種を受ける必要があります。しかもそれぞれの予防接種が1回では済まず、間隔をあけて2~3回接種しなければならないものが多いのです。
乳幼児は発熱しやすいものですが、37.5度以上になると予防接種を受けられません。予防接種を受けに行く日程調整、これがなかなか難しくなります。

じいじ・ばあばがパパ・ママに代わって孫の予防接種につきそう場合には、子どもの体調をよく確かめて、事前に書類(母子健康手帳、保護者が同伴しない場合の予診票、保護者のサイン、印鑑等)をそろえておく必要があります。

そして、無事に予防注射を終えたら、接種後30分程度はすぐに帰宅しないで子どもの様子を観察するか、医師とすぐに連絡がとれるようにしなければいけません。急な副反応が起こることがまれにあるからです。

母子健康手帳や自治体ごとに配布される予防接種手帳、おしらせなどをチェックして、予防接種が受けられる時期がきたら、なるべく早めに接種を受けるように心がけましょう。

(参考)

予防接種制度について 厚生労働省健康局結核感染症課

日本の小児における予防接種スケジュール 国立感染症研究所

日本の予防接種制度―ワクチンギャップをどう埋めるか―齋藤昭彦 新潟大学医歯学総合研究科小児科学分野

NPO法人VPDを知って、子どもを守ろうの会(予防接種スケジューラーアプリがある)

『子育ての常識・非常識 どっちが正しいの!? 育児の世代対抗戦』保健同人社電話相談室 (著)、高橋悦二郎 (監修)、保健同人社

『団塊世代の孫育てのススメ―イマドキの子育て事情とパパママのサポートのコツ 』宮本まき子 (著) 、中央法規出版

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