日本ならでは、母子健康手帳
2016.02.25
母子健康手帳の歴史
日本では、妊娠していることがわかったら、現在住んでいる市区町村に「妊娠届」を提出する必要があります(義務ではなく勧奨)。このとき、「母子健康手帳」が渡されます。
妊娠中から出産・産後・乳幼児期・学童期まで、母子の健康を保持するために必要な情報が提供され、子どもの成長記録を記載できる「母子健康手帳」は、世界的にも注目を浴びており、アジアやアフリカ各国で導入が進んでいます。
日本の母子健康手帳の原型は、昭和17(1942)年の「妊産婦手帳」です。戦中戦後は「妊産婦手帳」を提示すれば物資や食料が特別に配給されたことから、当時は約7割の妊婦が取得したそうです。
「妊産婦手帳」は妊娠・出産までの保健指導を目的としていましたが、昭和22(1947)年に児童福祉法が成立したことにともない、昭和23(1948)年、子どもの成長も記録できる「母子手帳」が誕生しました。
その後、昭和40(1965)年に制定された母子保健法に基づき、「母子健康手帳」と名称が変更されました。
じいじ・ばあば世代が子育てをしていた頃は、すでに「母子健康手帳」という名前になっていましたが、それまでの慣例から「母子手帳」と呼ばれることも多いようです。
「おしりかじり虫」でおなじみのビジュアルアーティスト、うるまでるびさんのサイト「うるまでるびデラックス」では、全国から寄せられた「母子手帳」を紹介しています。表紙に時代性や地方ごとのカラーが反映されており、貴重な資料といえますね。
http://urumadelvi.com/jp/anzan/techo/
現在発行されている「母子健康手帳」は、妊婦健康診査や両親学級(母親学級)、出産後の乳幼児健康診査時、予防接種時、妊娠中・出生後に病院にかかったときなどに持参して記録します。
これらの記録は、母子が大きな病気にかかったとき、重要な情報となります。また、予防接種の記録は「予防接種済証」という公的な証明となり、小学校入学以降もたびたび必要となる情報なので、長く保管しておく必要があります。
また、「母子」と謳っていますが、父親などすべての保護者にとって有用な知識、情報が盛り込まれています。1歳、2歳の子どもの誕生日には、両親からのメッセージを記載する欄もあるなど、子どもの成長を見守る大切な補助ツールとして、いつでも手に取れるようにしておきましょう。
母子健康手帳の内容改正の経緯
母子健康手帳は昭和45(1970)、46(1971)、48(1973)、52(1977)、55(1980)、62(1987)年、平成11(1999)年に一部改正、昭和51(1976)年、平成4(1992)年、14(2002)年、24(2012)年に全面改正が行われています。
平成に入ってからは10年ごとに全面改正が行われてきました。この3回の全面改正について、簡単に説明しましょう。
平成4(1992)年の改正では、母子健康手帳の交付が都道府県から市町村に委譲されました。
そして、母子健康手帳の前半部分「記録(医学的記録、保護者等の記録)」は全国共通、後半部分の「情報(行政情報、保健・育児情報)」は、各自治体の裁量に任されるようになりました。
平成14(2002)年の改正では、
・離乳の状況や乳幼児身体発育曲線に幅をもたせた
・乳幼児虐待の防止に配慮し、子育て支援のための記述の充実
・父親の育児参加を促進する記載を追加
・働く女性のための出産、育児に関する制度の解説
などです。
平成24(2012)年の改正内容としては、
・妊娠経過の記載欄の変更
・成長発達の確認項目の一部を、達成時期を記載する形式に変更
・新生児期の検査記録として、先天性代謝異常検査と新生児聴覚検査の記録欄を追加
・便色の確認の記録欄と「便色カード」を追加
・乳幼児身体発育曲線と幼児の身長体重曲線を改正
・「予防接種の記録(任意接種)」「予防接種スケジュール例」「胎児発育曲線」「18歳までの成長曲線」などを追加
などです。
便色カードって?
平成24(2012)年の改正で取り入れられた「便色カード」。これは何かというと、ズバリ赤ちゃんの便の色をチェックするためのものです。
日本では、赤ちゃんの約1万人に1人の割合で「胆道閉鎖症」が発生しています。胆道閉鎖症とは、肝臓から腸に胆汁を運ぶ管が生まれつき、または生後間もなく詰まってしまう病気。早期発見により完治する見込みが高くなるのですが、発見が遅れる場合が多く、そのために亡くなることもあります。この病気を早く発見するために、便色カードが作られました。
便色カードの便色番号が1~3番だった場合、1日も早く小児科医、小児外科医等を受診しなければいけません。
胆道閉鎖症のための便色カード活用マニュアルはこちら。
赤ちゃんの便の色や状態は、赤ちゃんの健康の重要なバロメーター。
これから子育てに関わる人は、母子健康手帳の中にある「便色カード」を活用して、赤ちゃんの便の変化を見逃さないようにしましょう。
(参考)
母子健康手帳の交付・活用の手引き 平成23年度 厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)2000年2月発行『健康文化』26号「母子健康手帳 ―今昔-」
平成24年母子健康手帳の改正について―日本産婦人科医会幹事松田秀雄