危険! 揺さぶられっこ症候群
2016.03.24
揺さぶられっこ症候群とは
平成以降、赤ちゃんを取り巻く新しい社会問題として、特にマスコミが大きく取り上げたのが、「乳幼児突然死症候群(SIDS)」と「揺さぶられっ子症候群」です。
初めて「揺さぶられっ子症候群」という言葉を耳にした人は、赤ちゃんを多少強めに揺すったことで、ちょっと具合を悪くしたぐらいの軽いイメージを持つかもしれません。
しかし、実際はそんな生易しいものではなく、脳内出血により、時として死亡する危険な状態であることを知っておいた方がいいでしょう。
揺さぶられっ子症候群は、昭和47(1972)年に米国で初めて症例が報告され、1980年代には児童虐待の一つのパターンとして広く知られるようになりました。
英語で 「Shaken Baby Syndrome」と言いますが、「Shaken」の文字通り、乳幼児(特に6か月以下)が激しく揺さぶられることで、脳や身体に障害を及ぼす諸症状を指します。
日本では平成3(1991)年に小児科学学会で1例報告され、平成9(1997)年にあらためて「揺さぶられっ子症候群」として3例報告されたことで、マスコミが取り上げ話題になりました。
揺さぶられっ子症候群は、乳幼児が強く揺さぶられることで、脳に深刻なダメージが引き起こされ、言語障害、学習障害、歩行困難、精神遅滞、視力障害、死亡などが起こるものです。
乳幼児が突然原因不明で死んでしまう、乳幼児突然死症候群(SIDS)にも、揺さぶられっ子症候群が原因となった事例も含まれているだろうと言われています。
では揺さぶられっ子症候群とは、どのようにして起こるのでしょう。
なぜ起こる? 揺さぶられっこ症候群
赤ちゃんが泣いたり、ぐずったりしたときは、ほとんどの場合、赤ちゃんを抱き上げて、「よしよし」と言いながら左右に揺らすなどしてあやします。
しかし、新生児期の赤ちゃんは首がすわっていないため、頭の重さを自分で支えることができず、首がすわった後も、頭が大きくて重いので、衝撃を緩和することができません。そのため、赤ちゃんを激しく揺さぶると、頭部に遠心力が直接伝わってしまうのです。
さらに、人間の脳は頭蓋骨に覆われていますが、脳と頭蓋骨は密着しているわけでなく、隙間があります。赤ちゃんは生後2か月頃から1歳頃まで、脳の成長とともにこの隙間が広がっていきます。頭蓋骨の中でフワフワと体液に浮かぶ赤ちゃんの脳。そこに揺さぶるなどで外から衝撃を加えると、脳そのものにダメージが及びます。
日本での揺さぶられっ子症候群の症例数は発表されていないのですが、医学文献に寄せられた症例では、
・赤ちゃんが号泣したので、赤ちゃんの頭を2秒間に5~6回揺すった
・赤ちゃんをあやすつもりで十数秒に5~6回、身体全体を激しく揺すった
・赤ちゃんをあやすために、頭上に投げ上げ、受け止める行為を繰り返した
・赤ちゃんの両脇を抱え、「高い、高い」と上下に動かす動作を数回繰り返した
などで、揺さぶられっ子症候群の症状が現れたということです。
赤ちゃんや小さな子どもを泣き止まそうとして、あるいは、あやすつもりの行為により、重大な事故となってしまうのが、揺さぶられっ子症候群。
特に父親は、母親に比べて子育てに関わる時間が短いため、赤ちゃんや小さい子どもの扱いに不慣れです。不慣れなゆえに、赤ちゃんの泣き声に耐性がないため、ついカッとなったり、力ずくで泣くのを止めようとしたりしまいがち。
父親に限らず、育児ストレスで追いつめられた母親が、我を忘れて赤ちゃんを乱暴に揺さぶったケースや、年長の子どもが揺りかごを大きく早く何度も揺らして事故となったケースもあります。
そういう状態で、泣いている赤ちゃんがピタリと泣き止んだときは、要注意。
赤ちゃんの様子をよく観察して、目の焦点が合わない、痙攣を起こしている、吐き戻す、意識がなくなった、ぐったりしているなどの症状が出たら、ただちに病院に行かなければいけません。
ときには、泣き止まずに、それまで以上に激しく泣き続けることもあります。
赤ちゃんを激しく揺さぶった数日後~数か月後に、赤ちゃんの身体の異変に気づいたものの、原因がわからず手当てが遅れることもあるので、「たぶん丈夫だろう」と事態を軽視することは禁物です。
揺さぶられっ子症候群を防ぐために
厚生労働省では、平成14(2002)年度より母子健康手帳に揺さぶられっ子症候群についての注意を記載しています。
また、広報啓発DVD「赤ちゃんが泣きやまない~泣きへの対処と理解のために」を制作。揺さぶられっ子症候群を防ぐために知っておくべきことを、動画によりわかりやすく解説しています。
このDVDでは、
・赤ちゃんは生後1~2か月に泣きのピークがあり、何をやっても泣き止まないことがあります。
・赤ちゃんは泣くのが仕事。どうしても泣き止まないときは、赤ちゃんを安全な場所に寝かせて、その場を離れてリラックスします。少ししたら戻って、赤ちゃんの様子を確認しましょう。
・赤ちゃんの泣きの特徴と激しく揺さぶってはいけないことを、家族に知ってもらいましょう。
と呼びかけています。
この中では、赤ちゃんが泣き止まない場合の有効な対処法も紹介しているので、家族全員でこの動画を見て、揺さぶられっ子症候群への理解を深め、不幸な事故を防ぐ手立てとしてはいかがでしょう。
(参考)
wikipedia揺さぶられっ子症候群「乳幼児揺さぶられ症候群」の実態 子ども・子育て NHK生活情報ブログNHK