応急処置 いま・むかし(ケガ)
2016.06.09
赤チン、オキシフル、マキロン
子どもが擦り傷を作ったり、指先を切ったりなどのケガをすると、昔は傷口に消毒液をつけて、ガーゼを当てるという手当てがなされました。
昭和の時代、家庭の常備薬として薬箱の中に必ず入っていたのが、赤チン、オキシフルです。
赤チンとは「赤いヨードチンキ」という意味ですが、ヨードチンキは入っていなくて、正式には「マーキュロクロム液」という、有機水銀を精製水で溶解した消毒薬です。
昭和40年代頃、水銀公害や水銀による土壌の汚染が社会問題となり、赤チンも製造過程で水銀の廃液が発生することから、昭和48(1973)年に国内での原料生産が中止となりました。現在は中国から輸入された原料による生産がなされています。
赤チンを使うと真っ赤な治療痕が肌に残りましたし、傷口に塗るとブクブクと泡立つオキシフルは、強烈に傷口にしみたので、「カッコ悪いし、痛い」ということで、子どもたちにとっては敬遠の対象でした。
その後、赤チンにかわって黄色いリバノールなどが登場しましたが、昭和46(1971)年に山之内製薬より「マキロン」が発売されると、色がつかず、傷口にしみないことから、たちまち外傷消毒薬の代名詞的存在となったのです。
湿潤療法
平成に入ってからも、しばらくは傷口をマキロンなどで消毒して、絆創膏を貼ったり、包帯を巻いたりなどの処置がとられてきました。
小中学校の保健室では、ちょっとした擦り傷のとき、水道水で傷口を洗うだけだと、子どもから「ちゃんと治療してほしい」と要望されることがあり、そういうときにはマキロンなどをつけるのだとか。
しかし、近年は医療現場でそうした治療方針が根本から見直されていることをご存じでしょうか。
それが「湿潤療法」(モイストヒーリング)です。
欧米では、1960年代後半から臨床報告で湿潤療法が紹介され、日本では平成13(2001)年頃より、形成外科を中心に医療現場で取り入れられています。平成15(2003)年にはNHK「ためしてガッテン」でも紹介され、一気に普及しました。
以前は、ケガをしたら、傷口を消毒して、絆創膏やガーゼで覆って、傷口を乾かして「かさぶた」を作って治すという考え方が主流でした。
湿潤療法では、傷口を消毒しない、乾燥させないという真逆の方法がとられます。
ケガをすると、傷口から血液以外に透明の滲出液がしみ出てきますが、実はこの滲出液には「細胞成長因子」が含まれ、傷を治す細胞を増やしてくれる働きがあるのです。
以前の治療方法では、消毒液が皮膚の再生組織を壊し、傷を乾燥させることによって浸出液の働きを阻害していたのです。
湿潤療法では、最初の手当ては、傷口を水道水で洗浄するだけ。この後で、消毒薬を使う必要はありません。
次に傷を被覆材でぴったりと覆う、もしくはワセリンなどを厚く塗って、傷口の乾燥を防ぎます。
被覆材というのは、病院では主に専用の「創傷被覆材」(ハイドロコロイドやプラスモイストなど)を使いますが、家庭では食品用のラップで代用できます。
広範囲の擦り傷などには、ワセリンを塗った上にラップを巻きつけます。
小さな擦り傷や軽いやけど程度なら、傷口を水道水でていねいに洗い、ワセリンを塗ってラップを巻いておくだけで、数日で治ります。
「かさぶた」ができず、皮膚がひきつれたり、痛みが出たりということもなく、傷跡も残りません。
ただし、動物にかまれた、異物を刺して傷の中に破片が残っている、出血が止まらない、やけどで水ぶくれがたくさんできているなどの場合には、化膿する危険が予測されるので、病院での治療が必要です。
また、湿潤療法の途中で、「傷の周囲が腫れている」「発赤(赤い)」「熱感(熱っぽい)」「圧痛(痛い)」、という4つの感染のサインが出たなら、やはり病院で診察を受けなければいけません。
比較的新しい応急処置である湿潤療法について、まだ慣れていない人は、自分自身がケガしたときに一連の方法を試してみることをお勧めします。
薬局などには、ポリマー素材の樹脂を使った湿潤療法仕様の新型絆創膏が販売されているので、実際に手にとって、これまでの絆創膏との違いを見比べてみるといいでしょう。
止血の方法
昭和の時代、ケガをして出血がひどい場合、応急処置として、出血部の近くを縛って止血をする「止血帯法(緊縛止血)」が指導されていました。
保健体育の授業などで「傷口より心臓に近いところを包帯や紐で縛る」と教えられていたのですが、これがかえって出血が止まりにくくなったり、組織の壊死を招いたりなどの事態を招き、素人の応急処置としては適当ではないと判断されるようになりました。
そこで今は、出血部を真上から圧迫して止血する「圧迫止血」が推奨されています。
出血部を清潔なガーゼ、ハンカチ、タオルなどの布でおおい、しばらく手で押さえます。
このとき、ティッシュを使ってはいけません。ティッシュなどの紙の繊維が傷口に入り込むと、化膿しやすくなるからです。
圧迫止血の後は、出血部を心臓より高い位置に持っていき、出血部の血圧を下げること。
止血が認められ、ケガ人が落ち着いたら、すぐに救急病院へ向かいましょう。
(参考)
『子育てハッピーアドバイス 初孫』明橋大二 (著)、吉崎達郎 (著)、1万年堂出版