むかし「日射病」、いま「熱中症」
2016.08.25
「熱中症」が増加している!?
近年、日本における「熱中症」での救急搬送が多くなっています。
昭和の時代には、暑さで具合を悪くする病気のことを「日射病」や「熱射病」と呼んでいました。
しかし、日射病や熱射病で死亡する例は今ほど多くなかったと思います。それではなぜここ数年、「熱中症」による死亡事故が急増しているのでしょうか。
熱中症が増加傾向にある理由として、昭和大学医学部の三宅康史教授は以下の3つの要因を挙げています。
・日本では、真夏日・猛暑日・熱帯夜が増加し、都会で見られる「ヒートアイランド現象」などで、相対的に暑くなっている。
・高齢者・独り暮らし・経済的困窮者など、熱中症にかかりやすい条件をもった人(熱中症弱者)が増加している。
・「熱中症」の認知度が上がったことで、熱中症と診断される人の数が増加した。
実際に「熱中症の死亡数の年次推移」を見ると、平成19(2007)年以降、毎年多くの人が熱中症で亡くなっています。
※厚生労働省大臣官房統計情報部『平成27年我が国の人口動態―平成25年までの動向―』より抜粋
「日射病」や「熱射病」が「熱中症」に変わったのは、平成12(2000)年頃のこと。日本神経救急学会と日本救急医学会が、暑さによる健康障害をすべて「熱中症」に統一しました。
「熱中症」とは「熱に中(あた)る」、つまり「熱による中毒」を意味し、昔からあった病名です。典型的な症状として、次の4つがあります。
○熱失神
暑い環境で運動した後や炎天下にいて急に立ち上がった時などに、めまいや一時的な失神を起こすことがあります。
○熱けいれん
大量に汗をかいている時、水だけを飲むことで、血液の塩分濃度が低下して、腕や足、腹部のけいれん・筋肉痛を起こすことがあります。
○熱疲労
暑い日に汗をかくなどで身体の水分量が失われることで、頭痛、吐き気、嘔吐、めまい、全身倦怠感、脱力感などの脱水症状を起こすことがあります。
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(応急処置)涼しい場所に避難し、服をゆるめて寝かせ、脚を上げ、適量の塩分を含んだ水分を補給する。
○熱射病
熱中症の中でも重篤な症状です。高体温(顔が赤い、体を触ると熱い)と意識障害(反応が鈍い、言動がおかしい、意識がない)が見られます。ショック状態による死の危険があります。
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(応急処置)救急車を呼び、すぐに体を冷やす。意識がない場合は、無理に水を飲ませないこと。
子どもの熱中症
西武鉄道が運営するサイト「GRUTTO PLUS リサーチ」では、平成28(2016)年6月24日~27日、0歳~12歳の子どもがいる母親500人に「子どもの熱中症対策と夏のおでかけ」についてアンケートを実施しました。
同調査では、500人中63人が「(子どもが熱中症に)かかったことがある」と回答しており、子どものおよそ8人に1人が熱中症にかかったことがあるという結果でした。
熱中症になった年齢で一番多かったのが、「6歳」で、これに「7歳」、「8歳」を合わせると、全体の46.0%に上り、「小学校低学年の子どもは熱中症にかかりやすい」という傾向が見られました。
「子どもの熱中症対策として実際に行っているもの」としては、「マメに水分補給を行う」、「帽子を着用する」、「暑い日は屋内で過ごさせる」がベスト3です。
小さな子どもは、汗腺など体温調節機能が十分に発達していない上に、身長が低いために地面からの照り返しを受けやすいなど、大人よりも熱中症になりやすいリスクを複数もっています。
上記の「熱中症対策」を参考に、子どもが喉の渇きに応じて自分で水が飲めるようにするなど、子ども自身にも「熱中症」の予防を意識させるように工夫しましょう。
熱中症の予防対策
環境省では、平成18(2006)年度より、熱中症患者の増加を未然に防止するため、「環境省熱中症予防情報サイト」を設置し、暑さ指数(WBGT)の予測値・実況値の提供を行っています。
暑さ指数(WBGT)とは湿度、日射等からの輻射熱(黒球温度)、気温の3つを取り入れた指標です。
「ほぼ安全」「注意」「警戒」「厳重警戒」「危険」の5段階で、マップの上に暑さ指数の予測値・実況値を表示するので、外出や行事の日程を検討する判断材料となります。
「危険」を示す真っ赤な表示が出たなら、高齢者や子どもの日中の外出はやめさせるなど、無理をさせないようにしましょう。
また、「環境省熱中症予防情報サイト」からダウンロードできる「熱中症環境保健マニュアル」は、環境省が作成・公表している保健指導マニュアルです。熱中症を防ぐための対策として、以下に重要と思われるポイントを抜粋しました。
1.暑さを避ける
・外出時は日陰を選んで歩き、涼しい場所で適度に休憩しましょう。
・住まいには断熱素材の屋根や壁、日射遮断フィルムなどを用いて、外部の熱を遮るようにします。
・窓からの日射をブラインド、すだれ、カーテン(グリーンカーテンも有効)などで遮りましょう。
・空調設備(エアコン)などを使って室温を調整しましょう。
・外出時には日傘・帽子で直射日光を防ぎましょう。
2.こまめに水分と塩分を補給する
・飲料として摂取する水の量は、1日あたり1.2リットルが目安です。
・人間は軽い脱水状態のときには、喉の渇きを感じません。喉が渇いたと気づく前に、こまめに水分を補給する必要があります。
・運動や作業などで大量に発汗したときは、0.1~0.2%程度の塩分濃度の飲料を飲みましょう。
・入浴時、睡眠時も汗をかくので、入浴前後、就寝時には水分を摂る必要があります。
・アルコールは尿の量を増やし、体内の水分を排泄させます。汗で失われた水分をビールで補給しようとするのは間違いです。
3.暑さに備えた体づくりをする
熱中症は例年、梅雨入りの5月頃から発生し、梅雨明けの7月下旬から8月上旬に多く発生する傾向があります。夏以外でも急に暑くなると熱中症が発生します。これは体が暑さに慣れていないためで、汗をかくための自律神経がうまく働くまでには数日間を要します。
毎日30分程度の運動(ウォーキングなど)をするなど、日頃から汗をかく習慣を身につけていれば、身体が暑さに慣れやすく(暑熱順化:しょねつじゅんか)なります。
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昔は運動部のクラブ活動などで、練習中に水を飲むことを禁止する例が多く見られました。
「水分を摂りすぎると、汗をかき過ぎて身体がバテる」という誤った考え方が広まったためと考えられます。人間は汗をかくことで体温調節をするので、汗をかかなくなる方が健康に問題が生じます。
また、熱中症予防のためにスポーツドリンクを利用する人も多いですが、市販のスポーツドリンクには思った以上に糖分が多く含まれています。飲み過ぎると、「ペットボトル症候群」と呼ばれる急性の糖尿病を引き起こす危険性があるので、注意しましょう。
最近では、熱中症を起こしたときのための応急処置用として「経口補水液」が薬局などで売られています。「小児用経口補水液」もあるので、高齢者や小さな子どもがいる家庭では、もしもの対策として用意しておくといいでしょう。
(参考)
熱中症予防のための啓発資料「熱中症を予防しよう -知って防ごう熱中症-」独立行政法人日本スポーツ振興センター
熱中症経験が多い子供の年齢とは?熱中症対策特集 | GRUTTO PLUS [ぐるっとプラス]