公園の遊具
2016.09.01
乳幼児の遊びの変化
小学校に上がる前の子どもたちは、普段どこでどんな遊びをしているのでしょうか。
ベネッセ教育総合研究所では、乳幼児の生活の様子と保護者の子育てに対する意識や実態を把握するための「幼児の生活アンケート」を実施しています。この調査は、平成7(1995)年より5年ごとに行っていて、平成27(2015)年の第5回では、首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の0歳6か月~6歳就学前の乳幼児をもつ保護者4,034名に調査を行いました。
「幼児の生活アンケート」での、「子どもがよくする遊び」について、第1回から第5回までを経年比較した表を見てみましょう。
「子どもがよくする遊び」で、もっとも多く挙がった回答は「公園の遊具(すべり台、ぶらんこなど)を使った遊び」で、20年前の66.0%から80.0%と大きく増加しています。
一方、第1回調査から第3回調査までは増加し、その後減少傾向となっているのが、「砂場などでのどろんこ遊び」(第3回57.6%→47.7%)などでした。
また、「子どもが平日、(幼稚園・保育園以外で)遊ぶことの多い相手」として、「友だち」が56.1%から27.3%に半減して、「母親」が55.1%から86.0%に増加したという結果が出ています。
この結果から浮かび上がってくるのは、小学校に通うまで、多くの子どもが「母親」とだけ遊び、あまり他の子どもと関わることがないという実態です。
晴れた日は公園に行って、「すべり台やぶらんこ」などで遊び、雨の日は室内で「つみきやブロック」「人形」「おもちゃ」を使って遊ぶというのが平均的な生活スタイルのようです。
昔は公園の遊具の使い方や遊びのルールなどは、兄や姉、近所の遊び友達から教えてもらったものですが、今は母親に教えてもらう場合が多くなっているでしょう。
そんななか、子どもにとって最も重要な遊び場所である「公園」が、今大きく変わろうとしています。
公園の遊具の変遷
昭和の時代、子どもたちの遊び場は、里山や神社の境内、近所の空き地など、多岐にわたっていました。公園が子どもの遊び場としての機能を果たすようになったのは、急激な都市化が進んだ高度経済成長期以降のことです。
昭和31(1956 )年制定の「都市公園法」には、「公園施設として少なくとも児童の遊戯に適する広場、植栽、ぶらんこ、すべり台、砂場、ベンチ及び便所を設けるものとする」と定めています。現在でも多くの公園にぶらんこ、すべり台、砂場がセットのように置かれているのは、このためです。
しかし、この法令には、公園の遊具等の設計や保守管理に関する規定がなかったので、どこの公園にどのような遊具があるのかという記録もなく、公園の遊具は、点検やメンテナンスがなされないまま、長い間放置されていました。
そのため、平成以降、公園の遊具を巡り、さまざまな問題が同時期に噴出したのです。
たとえば、「砂場」の汚染問題です。
平成9(1997)年に行われた神戸大学医学部の宇賀昭二教授による調査研究によれば、兵庫県下の公園および児童遊園地の砂場の30%が蛔虫卵、83%が大腸菌で汚染されていました。
同様の研究が大阪教育大学などでも行われており、イヌ・ネコの糞便による公園の砂場の汚染リスクが危険視されるようになったのです。
結果、砂場に動物除けの柵を設置したり、シートで覆ったりなど、さまざまな対策がとられるようになりました。
それでも、衛生面を気にする家庭では、子どもを砂場で遊ばせることを避ける傾向が見られます。このため、自治体によっては、新設する公園や校庭から砂場そのものをなくす動きが出てきました。
さらに、「箱ぶらんこ」の危険性です。
平成9(1997)年、神奈川県で箱ぶらんこに乗った小学生が重傷を負う事故が発生しました。このとき被害を負った子ども自身が、市と遊具メーカーを相手どって訴訟を起こしたことで、「箱ぶらんこ裁判」として注目されました。
最終的に「箱ぶらんこ裁判」は原告の敗訴となりましたが、この事件をきっかけに、公園の遊具の安全性が全面的に見直されることになったのです。
平成14(2002)年、国土交通省から「都市公園における遊具の安全確保に関する指針」が出されました。この指針に沿って、多くの遊具メーカーが会員として加入している一般社団法人日本公園施設業協会(JPFA)が「遊具の安全に関する規準」を定めました。
この規準で特に危険度が高いとされる「箱ぶらんこ・遊動木・回旋塔」は、全国で撤去が進んでおり、この三つを公園の遊具の「絶滅危惧種」と呼ぶ人もいます。
国土交通省では、平成10(1998)年より3年おきに「全国の都市公園等における遊具等の設置状況や安全点検の実施状況等」を調査しています。
集計結果の一部を以下に示しました。
「箱ぶらんこ(表:ゆりかご型ぶらんこ)」は、平成10(1998)年に14,198基あったものが、平成25(2013)年には1,864基と10分の1近くまで減少しています。「回旋塔(表:回転塔)」は平成13(2001)年の6,001基をピークに、平成25(2013)年には2,774基と半減。「砂場」は大きく減少することはなく、6万基前後で推移しています。
公園の遊具で安全に遊ぶためのルール
このように遊具の安全基準が制定され、危険な遊具の撤去が進む今も、遊具による事故が後を絶ちません。
消費者庁によると、遊具による子ども(0歳~12歳)の事故は、平成21(2009)年9月~平成27(2015)年12月までに、1,518件が報告されています。
遊具別では「すべり台」が440件、「ぶらんこ」233件、「鉄棒」141件、「ジャングルジム」120件で、すべり台が最も多くなっています。
けがのきっかけは「転落」が最も多く、全体の6割以上で974件。これに「ぶつかる・当たる」247件、「転倒」162件が続きます。
「入院を要するまたは治療期間が3週間以上(中等症以上)」の事故が3割近い397件で、うち死亡事故が4件ありました。
消費者庁が呼びかける、遊具で遊ぶ際に注意すべきポイントを、以下に示しました。
(1)施設や遊具の対象年齢を守りましょう。
施設や遊具の対象年齢の表示を確認し、年齢に合った遊具で遊ばせましょう。
(2)6歳以下の幼児には保護者が付き添いましょう。
消費者庁に寄せられた事故情報では、6歳以下の事故が7割を超えています。特に、転落による事故が多く発生しているため、高さがある遊具を使う場合は、目を離さないように気を付けましょう。
(3)子供の服装や持ち物に注意しましょう。
消費者庁に寄せられた事故情報では、遊具に服の一部や持ち物が引っ掛かったり、絡まったりして、死亡に至った事故が2件ありました。子供を遊ばせる際は、衣服や持ち物に危険なひもやベルトなどが付いていないか、あらかじめ確認しておきましょう。
(4)遊具ごとの使い方を守らせましょう。
すべり台で反対側から登る、柵を乗り越えるなど、本来の使い方でない遊び方をして、大きなけがを負った事例もありました。
子供にとって本来の遊び方と違う使い方で遊ぶことも楽しいことですが、大きな事故につながることもあるため、正しい使い方を教えることは大切です。
(5)遊具を使う順番待ちでは、ふざけて周りの人を押したり突き飛ばしたりしないようにさせましょう。
すべり台に登る階段やはしご、順番待ちをしている滑り台頂上部などや、ぶらんこの柵などの遊具の周辺の部分でも事故が起きています。
大きくなると、子供たちだけで遊ぶ機会が増えますが、不用意に飛び降りたり、ふざけたりしないように、日頃から言い聞かせましょう。
(6)天候にも気を付けましょう。
屋外に設置してある遊具では、夏場は表面の温度が80 度近くになるものや、雨に濡れて滑りやすくなるものもあります。屋外の遊具で遊ばせるときには、天候にも注意するようにしましょう。
(7)遊具の不具合や破損を見付けたら、利用を控え、管理者に連絡しましょう。
また、一般社団法人日本公園施設業協会(JPFA)では、公園での安全な遊び方を指導するための啓発パンフレット『仲良く遊ぼう安全に』(幼児編/児童編)を制作、配布しています。
幼児編では、公園で遊ぶときの注意点として、「ぶらんこ」「スプリング遊具」「シーソー」「すべり台」「鉄棒」「ジャングルジム」「砂場」など、遊具ごとに図解しています。
大人にとってはおなじみの遊び道具でも、初めてその遊具に接する子どもにとっては、どうやって遊ぶのか、どんな危険があるのか、わからないことばかり。
パンフレットを参考に、公園に遊びに行く際には、子どもと公園での遊び方のルールを確認しておくことをおすすめします。
(参考)
ベネッセ 幼児の生活アンケート遊具の安全規準におけるリスクとハザードの定義に関する一考察|関西大学大学院 社会安全研究科 博士課程後期課程|松野敬子
兵庫県下における公園砂場の犬・猫蛔虫卵ならびに大腸菌汚染状況