イクメン! ホンネと社会
2015.11.05
夫は外、妻は家庭
日本では、戦前の農業・漁業など第一次産業が主体だった時代は、多世代同居=大家族が普通でした。その頃は家族全員が家業に従事していたので、「専業主婦」という概念自体がありませんでした。
戦後、産業構造が変わり、第三次産業への就業が増えると、男性はサラリーマンとして会社勤めをし、女性は家庭で家事・育児を行うという役割分担が定着、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という考え方が一般的になっていったのです。
一方、じいじ・ばあばが青春時代を送った昭和40~50年代には、ウーマンリブ運動などで男女平等が叫ばれ、女性の社会進出も進みました。
昭和61(1986)年には「男女雇用機会均等法」が施行され、採用・昇進における男女差別の撤廃(努力義務)、教育訓練・定年・解雇における男女差別も禁止されました。
しかし、それから30年以上たった今でも「男は外、妻は家庭」という意識が根強く残っており、家庭をもつ女性がフルタイムで働いたり、男性が家事・育児を行ったりする際の障壁となっています。
女性の活躍推進に関する世論調査(内閣府・平成26(2014)年8月調査)
「男性が家事・育児を行うことについて、どのようなイメージを持っているか」
(数値は%)
内閣府の世論調査によれば、「男性が家事・育児を行うことについて、どのようなイメージを持っているか」という質問では、全体では、「子どもにいい影響を与える」が56.5%と最も高く、「男性も家事・育児を行うことは、当然である」(52.1%)、「家事・育児を行う男性は、時間の使い方が効率的で、仕事もできる」(31.3%)、「男性自身も充実感が得られる」(26.1%)とプラスの意見が上位に続き、「仕事と両立させることは、現実として難しい」(24.7%)が5番目でした。(複数回答、上位5項目)
性別・年代別に見ると、「子どもにいい影響を与える」と、20代~60代の女性の約6~7割が考え、女性の40代、50代、男性の20代~60代の過半数が「男性も家事・育児を行うことは、当然である」と考えています。
一方、20代、30代の女性では「男性も家事・育児を行うことは、当然である」と考える人の割合が、他の年代の男女に比べて少ない点が注目されます。20代の女性では、70代男女より少ない39.8%でした。
これから子育てをする年代の女性が、男性が家事・育児を行うことを当然と思わないのはなぜなのでしょう。
バブル崩壊後、長く続いた就職氷河期に伴い、「専業主婦になりたい」と望む女子学生が増加するなど、平成以降、若い女性の保守化が一部で顕著となっていると言われます。
国が思い描く「夫も妻も外で働き、家事・育児も分担」という男女共同参画社会の実現が進まないのは、20代、30代の女性が、家事や育児を男性が行うことにほとんど期待せず、そのため共働きに抵抗感をもっているからかもしれません。
それでは、20代、30代の男性はどのように考えているでしょう。
イクメンプロジェクト
平成4(1992)年4月、「育児休業等に関する法律」(略称「育児休業法」)が施行され、すべての事業所で(30人以下事業所は執行日猶予あり)男女の育児休業等が義務化されました。
その後、育児休業に介護休業が加わり、平成11(1999)年4月、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(略称「育児・介護休業法」)が成立しました。
同年、厚生労働省では、「育児をしない男を、父とは呼ばない」というキャッチフレーズの啓発ポスターを配布しました。当時人気絶頂のさなか、結婚・出産のために一時期活動を停止した歌手の安室奈美恵さんの夫(現在は離婚)のSAMさんを起用したもので、世間の大きな反響を呼びました。
平成22(2010)年6月、育児・介護休業法は、
○ 父母がともに育児休業を取得する場合、1歳2か月までの間に、1年間育児休業を取得可能とする。
○ 父親が出産後8週間以内に育児休業を取得した場合、再度、育児休業を取得可能とする。
○ 配偶者が専業主婦(夫)であれば育児休業の取得不可とすることができる制度を廃止する。
と定めています。
この改正を機に、厚生労働省では、男性の育児休業取得率を現状の2.03%から2017年度には10%に、2020年度には13%に上げるなどを目標に、「イクメンプロジェクト」を立ち上げました。
「育てる男が、家族を変える。社会が動く。」をスローガンに、全国でフォーラムやシンポジウムなどさまざまな活動が行われています。
この「イクメン」という言葉。美形男性の俗称「イケメン」にかけた、「育児(イクジ)をするメンズ(男性)」で、平成22(2010)年の流行語大賞トップテンに選ばれています。
平成27(2015)年4月に婚活アプリ「マッチアラーム」が会員男性に実施した調査によると、独身男性の約9割が、「結婚したらイクメンになりたい」と回答。
「はい」と回答した人からは、「奥さんの負担を少しでも減らしてあげたいから」「子育ての大変さを分かりあいたいから」「子どもの成長の瞬間を見逃したくないから」「学ぶことが多く自分が成長できるから」などの声があがっています。
また、現在37歳以下の男性は、男女共修になった家庭科(中学は平成5年、高校は平成6年)の授業を受けた世代です。
そのため、「夫は外で働き、妻は家庭」という性別による役割意識が上の世代ほど強くありません。
そうした男性の世代間での温度差を反映してか、男性社員が育児休業を取得したくても、利用できない理由の一つに、年上の上司が妨げる、「パタニティ・ハラスメント」(パタハラ)があると話題になりました。
じいじ・ばあば世代とパパママ世代の子育て観のギャップがここにも表れていて、パパが伸び伸びと子育てができるようになるには、じいじ・ばあば世代が「男性も家事・育児を行うことは、当然である」と意識を変えていくほかありません。
たとえば、パパ方のじいじ・ばあばは、自分の息子が台所で料理したり、子どものオムツ換えをする姿を見て、「情けない」とか「かわいそう」などと思ったことはありませんか。
パパが父親としての自覚をもち、ママとよりよい家庭を築いていけるように、息子の努力を見守り、積極的に応援しましょう。
(参考)
女性の活躍推進に関する世論調査(内閣府・平成26年8月調査)