ベビーカー
2015.12.17
乳母車からベビーカーへ
赤ちゃんを連れて移動するときに欠かせないのが、ベビーカー。
ベビーカーのルーツである乳母車は、大きな籐かごに四輪の車輪がついたもので、1800年代中期に欧米で製造され、明治期に日本にも輸入されていました。
乳母車という名前からもわかるとおり、乳母を雇う余裕のある中上流家庭で主に使用されていたと思われます。
昭和中期ぐらいまで乳母車は使用されていましたが、昭和40(1965)年にイギリスのメーカー、マクラーレンが傘のように折りたためるベビーカー「ベビー・バギー」を開発してから、日本にもベビーカーが急速に普及しました。
現在日本ではコンビとアップリカの2社がベビーカー市場のシェアを二分しており、年間約70万~80万台が販売されています。
昭和の時代はこれら国内メーカーのベビーカーを利用する人がほとんどでしたが、平成20(2008)年頃、国内でマクラーレンのベビーカーがブームとなり、海外メーカーのベビーカーの輸入量が急増しました。
国内メーカーのベビーカーは、子どもを寝かせた状態で使用できるA型と、コンパクトに折りたためるB型の2種類があります。これらの分類は(財)製品安全協会が定めるSG(Safety Goods)基準に基づいています。
このSG基準が平成21(2009)年に28年ぶりに改正され、それぞれの適用月齢が変更になりました。
旧基準では、A型は生後1か月~24か月、B型は生後7か月~24か月でしたが、A型もB型も最大48か月まで使用できるようになったのです。つまりギリ4才までベビーカーに乗せられるのです。
この改正は、欧米各国の安全基準と照らし合わせ、ベビーカーの使用期間が以前より長くなっている現状から、使用期間とそれに伴う強度や構造などの規定が見直しとなったものです。
一方、海外メーカーのベビーカーの普及に伴い、ベビー用品売り場では、両対面タイプ、バギータイプで分類する場合もあります。
両対面タイプはハンドルで切り替え、赤ちゃんの顔が見られる対面式と背後から押す背面式の両方で使えます。バギータイプはハンドルが2つに分かれていて背面式となります。
さて、子育てサイト「ベビカム」では、平成27(2015)年10月、A型ベビーカーについて人気調査を行っています。
コンビ、アップリカ、エアバギー、ピジョン、グレコ、マクラーレンジャパン、ジョイー、ペグ・ペレーゴ、カトージ、リッチェルという10のメーカーについて、安全性・安定性、赤ちゃんの乗せやすさ・使いやすさ、軽さ、収納のしやすさ、デザインの良さ、コストパフォーマンスという6つの指標で評価させました。
この調査では国内メーカーのコンビ、アップリカ、エアバギーの人気が高く、「日本の地形や生活形態に合っている」「コンパクトに折りたためる」などのコメントがあがっています。
国内メーカーで三輪ベビーカーを扱っているエアバギーには、「おしゃれ」「取り回しが良く安定感がバツグン」などの声があがりました。
三輪タイプが主流の海外のベビーカーは、「重量はあるが、安定している」「赤ちゃんへの衝撃が少なく、操作性が良い」といったコメントがあがっています。
ベビーカー利用時のルール
昭和の時代、ベビーカーはママが子どもを連れて近所を散歩するぐらいの限られた行動半径で使われていました。
しかし、平成の今は、街中どこでも普通にベビーカーが行き来するようになっています。ファミレスの入口などは、さながらベビーカーの駐車場のようです。
平成12(2000)年に交通バリアフリー法、平成18(2006)年にバリアフリー法が施行され、駅などの公共施設や商業施設に授乳・おむつ替えの設備や子ども連れでも利用しやすいトイレが設置されるようになりました。
子ども連れで外出しやすい環境が用意されたことで、さまざまな場面でのベビーカーの利用者が多くなっています。
平成26(2014)年3月、国土交通省は「公共交通機関等におけるベビーカー利用に関する協議会」を開催し、電車やバスでベビーカーを折りたたまないままでも乗れる基本ルールをまとめました。
同協議会のメンバーである神戸女子大家政学部の西本由紀子助手の調査によれば、首都圏での乳幼児の移動手段として、自動車を持たない母親の場合、92.2%がベビーカーを使っており、94.5%が鉄道でベビーカーを使ったことがあると答えています。
「公共交通機関等におけるベビーカー利用に関する協議会」調査より
一方、日本民営鉄道協会(東京都)が調べた平成26(2014)年度の「駅と電車内の迷惑行為ランキング」では、「混雑した車内へのベビーカー乗車」が19.5%で7位に入っています。
男女別にみると、女性が2.8ポイント増の30.2%(3位)で、男性は1.2ポイント増の16.5%(8位)で、男性よりも女性の方が「ベビーカーの乗車」を迷惑行為ととらえている、意外な結果でした。
同性である女性がなぜベビーカーを敵視するのかと不思議に思うところですが、「公共交通機関等におけるベビーカー利用に関する協議会」の調査によれば、じいじ・ばあば世代では、ベビーカーに子どもを乗せて鉄道を利用したことがある人の割合が57.5%と低く、「鉄道やバスなどの公共交通機関ではベビーカーではなく、おんぶや抱っこにすべき」という意識が根強いようです。
「公共交通機関等におけるベビーカー利用に関する協議会」調査より
さらには、最近のベビーカーは昭和の頃のものに比べて大型であることから、電車内でも場所をとるし、けっこう身体が大きい3才以上の幼児を乗せていることが「甘やかし」と反感をもたれる場面も多そうです。
このように、まだまだ社会全体のベビーカー利用に対する理解度が低いため、平成26(2014)年、前出の「公共交通機関等におけるベビーカー利用に関する協議会」では、「ベビーカーマーク」を作成し、ベビーカーの安全な使用の仕方とベビーカー利用への周囲の理解・配慮を呼び掛けています。
子育て中のタレントがおしゃれなベビーカーで颯爽と外出する姿が話題となり、若いパパ・ママ世代はベビーカー利用により、昔よりもずっと行動半径が広がっています。
パパ・ママは、じいじ・ばあば世代の目が思った以上に厳しいことを認識したうえで、ベビーカー利用時には安全ルールを守り、子育てしやすい社会の実現をめざしましょう。
(参考)
近現代日本における育児行為と育児用品に見られる子育ての変化に関する一考察『人間生活文化研究No.24 2014』平成26(2014)年度 駅と電車内の迷惑行為ランキング マナーアンケート 日本民営鉄道協会
公共交通機関におけるベビーカー利用について|神戸女子大学家政学部西本由紀子
「A型ベビーカー」人気ランキング-ベビカムライフスタイル研究所| ベビカム
報道発表資料:「公共交通機関等におけるベビーカー利用に関する協議会」決定事項の公表について – 国土交通省
『総まとめ くるくる変わる「育児の常識」』女性セブン(編) 小学館